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このヴァイオリンの製作者の Marino はブルガリア出身ですが、クレモナの製作学校を卒業、その後 Giorgio Scolari を始めとしていくつかの工房で働き、現在は独立しCremonaに工房を開いております。
私は G.Scolari の下で楽器を作っている頃からずっと彼のヴァイオリンを見ていますが、彼ほど製作スタイルが“激変”したヴァイオリン職人、製作家を知りません。
G.Scolari の下で作っていた時代のヴァイオリンは、がっちりとしたボディ、分厚いニスで、スクロール以外は全く師匠そっくり(スクロールまで同じにつくったらそれはScolariとして売られてしまいますから)でした。 それは、見るからに、そう簡単には鳴らせそうにないだろうなと思わせるような風貌のヴァイオリンでした。
それが次に移った工房で働く頃からは随分と作り方が変わってきたのです。 がっしりとした作りは残しながらも、鳴らしにくさは随分と解消されてきたのです。
そして今回ご紹介するこのヴァイオリンに至っては、楽器を持った瞬間、弾いた瞬間に「えっ」と思わせるようなヴァイオリンになっています。
つい安易に「新作とは思えない音がする」とか「まるで古いヴァイオリンのような音」という表現を使ってしまいますが、もはやこのヴァイオリンの場合は、その奏でる音は古いヴァイオリン、オールド名器の音そのものであると言っても過言ではないような気がいたします。それが弾いた瞬間の驚きです。
持った瞬間の驚きというのは、重量の「軽さ 」なのですが、その理由は板が薄いということではなく、材料の古さから来るものと思われます。軽くてもしっかりとした強さ、張りを持っています。
オールド銘器を普段弾いていらっしゃる演奏家にこの楽器を弾いていただきますと、何の違和感もなくこのヴァイオリンを鳴らされますが、もっと若い年代のヴァイオリンを強めの弓圧で弾かれている方にお試しいただきますと、意外にこのヴァイオリンは鳴ってくれません。あまり力を加えすぎますと音が飽和してしまうような感じになります。
楽器の“格”を考えると、にわかには信じがたいことですが、奏者に対して弾き方を根底から変えるよう要求することすらある、甚だ生意気なヴァイオリンと言えましょう。
自分はもっと“硬派”だ。強い弓でもってガーンとした音をヴァイオリンで鳴らしたいのだという方はどうぞこちらのCorrado Belli 1998 を。