人気TV番組「なんでも鑑定団」でお馴染みの中島 誠之助氏の著書に 『骨董の真贋』(二見書房)という本があります。
その中に、「鉄人が伝授する鑑賞の鉄則」というものが あるのですが、それを読んでみますと、骨董品のみならず、ヴァイオリン選びにも大いに役立ちそうです。ここでその内容についてご紹介したいと思います。
各々の項目についてひとつひとつ、中島 誠之助氏の説明に加え、それをヴァイオリンなど手工弦楽器を選ぶときにどう応用したらよいか(私なりに解釈したものを)順次解説していきたいと思います。
鉄人、中島 誠之助が伝授する鑑賞の鉄則
「 」内は中島氏の言葉 その後は私なりの解釈、解説です。
第 2条 ブランドに惑わされるな
「お上がこうだ、大多数がこうだ、といえば、 自分では何も考えないでそうだと思ってしまう。
誰が何と言おうとも、自分の目で見て、自分の感性で判断しなければ、成長はありません。」
どうも、日本人は 売れているものが良いものなのだ と思うような風潮があります。
本当は自分で気に入ったもの、自分でこれだ!と思うものこそが、まさにその人にとって「良いもの」であるはずなのですが・・・。
ブランドが単純に悪いものとは私は思いません。世の中にはブランドの名に恥じないものづくりをしている企業や職人も多数存在しているからです。
しかし、ブランドとは長い歴史の中で培われた信頼の証であって、一朝一夕に造り上げられるようなものではありません。最近流行の「ブランディング」は、大方が大々的な広告戦略によって造り上げられたもので、実体の伴わない中身が空虚なものも少なくありません。そういったものは真のブランドとは呼べないと私は思います。
個人主義より和が尊ばれるこの国では、自分で選んだものを自信を持って良いと言いい切ることができなくなってきているのではないでしょうか。自信が無いから、他人の評価、他人の目が気になるのです。それで、他人がすでに持っているもの、世間での評価が定まったものを選ぼうという考えに至るのです。
しかし、ヴァイオリン等手工弦楽器を探す場合は銘柄を指定して探すことはあまり意味がありません。それは、手工弦楽器というものは1台1台がそれぞれ個性ある異なった独立した個体であり、たとえ同じ製作者が同じ年に作ったものであっても、どうしても微妙な差が生じ、全く同じものとはならないからです。もちろん、年代、国籍、製作者による差というものはあるのですが、つまるところ、個体差の影響の方が大きいのではないかとも思えます。
作者を指定して楽器を探すことの間違い、無意味さについて言及した文章がありますので、ここに引用いたします。
最近「〇〇」作のヴァイオリンはありますか、という作者指定の問い合わせが よく入ります。
コンテムポラリー・メーカーの指名が主流ですが、友人の持っている「〇〇」作のヴァイオリンが素晴らしい音をしているので捜している、もしくはみなが知っている名前なので購入したい、 という処に理由はあるのです。
しかし、作者を指定して音を求める姿勢は最も愚かな選定法の 一つでしょう。
同じメーカーが同じ“パターン”で 作ったとしても 同じ音は絶対にしないからです。
G.B. モラッシのような音は存在するけれども、個々のモラッシを比較 すれば、あるものは音量が無く、あるものは音質が堅いなどと、 一本一本違う音色を持っているからです。
友人の持っている「素晴らしいモラッシの音」はたまたま「そのモラッシ」 の持っている音であり、その他のモラッシの音ではないことを知っておかな くてはいけません。
そして、「その素晴らしいモラッシの音」と同じような音は、別のメーカー の作品にもたくさんあるのでは、と考えるべきでしょう。 (後略)
「ヴァイオリンの見方・選び方」神田 侑晃
月刊ストリング2001年 2月号 P.77より引用
そもそも、クライスラーが言ったように、 「ヴァイオリンの音を創り出すのは演奏家であって、ヴァイオリンではない」 のですから「ブランドに惑わされるな」ということも真理ですが、名前にこだわること、銘柄を決めて探すこと自体が無意味だと言えるのではないでしょうか。
弦楽器サラサーテでは『間違いの無い楽器の選び方』をご提案しております。