TVでお馴染みの中島 誠之助氏の著書に 『骨董の真贋』(二見書房)という本があります。その中に、「鉄人が伝授する鑑賞の鉄則」という記述がありました。それを読んでみますと、ヴァイオリンの選び方にも共通して役立ちそうな事柄が沢山書かれていましたので、ここでその内容についてご紹介したいと思います。
各々の項目についてひとつひとつ、中島 誠之助氏の説明に加え、それをヴァイオリンなど手工弦楽器を選ぶときにどう応用したらよいか(私なりに解釈したものを)順次解説していきたいと思います。
鉄人、中島 誠之助が伝授する鑑賞の鉄則
「 」内は中島氏の言葉 その後は私なりの解釈、解説です。
第 6条 本物のあとに自分が気に入ったものを見る
「本物を見つづけて、本物の匂い、感性がなんとなくわかってきたあとに好きなものを見るのです。」
最初から自分の好みで楽器を探すと、それぞれの楽器の音色の違いに惑わされ、どれを選ぶべきなのか、わからなくなってしまうことが少なくありません。それは、好きな音色がたったひとつだけ、ということはまずないからです。
そもそも音楽(演奏)の世界は、数学のように正解がひとつしかないということはありません。演奏の解釈というのは演奏家なりに存在し、どれもがそれぞれ正解=名演ということが成り立ちます。
楽器の音色についても同様、ご自分にとっての正解が、たったひとつだけということは無いでしょう。
それにもかかわらず、「自分に一番合っている楽器=たったひとつの正解」を探し求める方が何と多いことでしょう。
こういったときに一番危険なのは、ご自分の好きな音色を探すことにばかり注意を払い過ぎて、結果的に性能が劣る楽器を選んでしまうということです。
正解がひとつではないのに、夢中になってそれを追及するばかりに、結局不正解を選んでしまう。つまり 「音色は良いが、性能は悪い」という楽器を選んでしまうということなのです。
弾いて選んでいるのだから、音を聴いて選んでいるのだから、そんなことは有り得ない。音色は良いのだから、楽器の性能が悪いことなんて有り得ないと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
「楽器の音色はとても気に入って買ったのですが、音量が無くて音が通らないんです」
「音色は良いのですが、音の立ち上がりがはっきりしないんです」
こういった話は、演奏の専門家や、専門家を目指す学生さんからもしょっちゅう聞きます。
これが「音色は良いが、性能は悪い」楽器を選んでしまった結果なのです。
「音色」という要素は個人の好みが占める部分が大きく、つまり主観的な要素が強いと言えるでしょう。一方、「性能」は人から音(演奏)を聴いて指摘される部分で、客観的な要素と言えるでしょう。
ですから、音色は好き(主観の問題)だが性能は悪い(客観の問題)ということが有り得るのです。
楽器の音など自分で好きだと思えれば、それで十分なのではないかというお考えもあるかもしれません。
しかしながら、演奏家や演奏家を目指す人の場合はそうは言ってはおられません。
人に聴いてもらって、自分の演奏をきちんと評価してもらわなくてはならないからです。
自分の演奏の意図、技術が正しく伝わらない、思うように表現できない、いわば演奏の足を引っ張るような楽器は道具としてマイナスでしかないでしょう。
また、いくら人には聴かせないから、自分はアマチュアだからと言っても決して楽器の性能は無視できるものではありません。それは楽器の上達のスピードに大きな影響があるからです。
性能の良い楽器や弓を買い替えられて、「今まで弾けなかったところが楽に弾けるようになった」「今まで何と時間を無駄に費やしてきたことか」とおっしゃる方は少なくありません。
ヴァイオリン(弦楽器)の場合、「性能」はもともとの楽器のつくり、そして古い楽器であればそれに加えコンディション(健康状態)によって大きく左右されます。
ですから、楽器のつくり、健康状態から、まずは性能の良い楽器、一定水準以上の性能を持つ楽器を選び出すことです。それが楽器選びの第一段階です。
そのためには、事前に本物=本格的なつくりのヴァイオリンを良く見ておいて、つくりが良いとはどのようなことなのか?良い健康状態とはどのようものなのか?を知っておかなければならないのです。
そしてそれが出来て初めて、自分の好みで選んでも大丈夫という状態になるのです。
もちろん、ご自分でヴァイオリンの「性能」について判断する自信が無いという方もいらっしゃると思います。そういった場合は、楽器の「性能」について正しい判断の出来る人、販売店に判断を仰いでください。
言うまでもありませんが、いきなりヴァイオリンを弾いて、音を出して判断しようとするような人では駄目ですよ。
弦楽器サラサーテでは『間違いの無い楽器の選び方』をご提案しております。