ヴァイオリンを買う時、鑑定書・証明書は本当に必要なの?第2回
ヴァイオリン(弦楽器類)の証明書・鑑定書について、何回かに分けてお話しています。今回はその2回目です。
前回、証明書類には大きく分けて二種類あるというお話をいたしました。
今回はそのなかで「製作者本人自らが書いたもの」について
少し詳しく書きたいと思います
実は、海外においては、日本のようないわゆる弦楽器店という形態の店がそう多くないのです。
特にイタリアでは、楽器を作るばかりで、そういう店は特に少ないですね。
日本ですと、弦楽器店に行って、様々な時代の、色々な国籍の、多数の製作家の楽器をまとめて見ることができるのですが、イタリアは古い楽器を調整、修理する工房や色々な楽器を取り揃えて、お客さんに見せるというような営業形態を取るようなところはほとんど見られないのです。
ですから、ヴァイオリンを買いたければ、直接工房に出向き、そこで注文して買うことになります。そして、それは当然、その工房の職人の製作の楽器を買うということになります。
イタリアの職人は作ることが専門で、古い楽器を修理して販売したり、他の職人の楽器を売るというようなことは原則やらないからです。
そういうわけで、イタリアのスタイルですと、本人から本人自らが作った楽器を買うことになるので、証明書など必要ないということになります。
これは、今モダンイタリーと呼ばれるような楽器もそうでした。というのは、今「モダン」と呼ばれている楽器も、少し前までは「新作」でしたから。
モダンイタリーの楽器の中には、イタリアのオケでずっと弾いてたプレーヤーがおじいちゃんになって、かつて「新作」で買った楽器を手放したというようなものもあります。そうすると当然、本人の工房で、本人が作った楽器を眼の前で受け取って買っているので、そのような楽器を日本で売ろうというようなとき、「証
明書は?」などと聞いても、「そんなもの無いよ、だって本人から買ったのだから」というようなことになります。
このイタリアのスタイル、慣習は当然現代にまで続いております。ですから、私がヴァイオリンを色々と見だしたころ、今から20数年前は、新作楽器でも本人の書いた証明書が付いていないものも結構ありました。
この商売を始める前ですが、ある楽器商のところでヴァイオリンを見させてもらっているとき、私がある新作ヴァイオリンに製作証明書が付いていないことを指摘すると、
「新作に証明書なんて要るわけがないだろう」
と怒られました。工房から直接買うのだから必要ないだろうということなのです。
ところが、現在色々と見回してみますと、たいていのイタリア新作には証明書が付けられていますね。
それは何故なのでしょう?
それは、日本でイタリア新作楽器がブームになり、あまりにも多くの楽器、多くの製作者の楽器が入ってくるようになったので、購入される方が、本物か偽物かとか、本当にその製作者は存在するのだろうかと、不安に思うようになったのです。イタリア国内やせいぜい陸続きのヨーロッパ内であれば工房に出向いて直接顔を見て買えるわけですが、東洋の島国ではなかなかそうもいかないですからね。
先に書きましたように、イタリア新作なら売れるとばかりに大量の楽器、玉石混交とも言える楽器が日本に入って来ました。その結果お客様自身で確かなものを見分けるのが困難になり、その拠り所を販売業者ではなく証明書に求めたということなのでしょう。売る側、つまり我々業者がお客様から信頼されていれば決してそうはならなかったと思うのですが・・・。
製作者側としては、楽器の写真を撮って、紙を書くだけですので「そんなに証明書が欲しいのなら、そんなにそれが有難いのなら付けてあげるよ」という
ことで、これまでのイタリアの慣習を破り、証明書を付けるようになったのが、おそらくイタリア新作楽器に証明書が付くようになったことの始まりでしょう。
このこと自体は決して悪いことでは無いと思いますが、問題は、証明書が付いていれば安心、信用できると思い込んでしまう方が多いことです。
楽器の良し悪しが証明書の有無では決まらないことは言うまでもないことでしょう。
楽器の性能、音は証明書からでは判断できないからです。そして、正しい証明書が付いているからと言って、音が弾く方の好みに合うかどうかもわかりません。
また、皮肉なことに、証明書は、比較的少ないと言われていた新作楽器の世界に贋作の出現の危険性を持ち込むことにもなりました。
先に書きましたように、証明書は写真と紙で簡単に作ることができるからです。
何も付いてきた証明書を捨ててしまうことはないと思いますが、元来新作ヴァイオリンには付いていないのが当たり前だったものなのです。盲信は禁物ということです。
本人が書いた証明書の実例
写真には、偽造を防止するため、サインや割印、印鑑などが押されることが多い
自筆で書かれている。
注文主あるいは後のオーナーが、製作者が存命中に楽器を持ち込み、書いてもらったものであろう。
そのことは証明書の発行日が製作年のしばらく後であることから想像される。
写真は添付されていないが自筆で書かれている。
弦楽器サラサーテでは『間違いの無い楽器の選び方』をご提案しております。