韓国人製作家 Shin-Hyuk Kwon 2021 405mm イタリア新作ヴィオラのご紹介
イタリア パルマ Scrollavezza&Zanre工房作 Shin-Hyuk Kwon G.B.Gudagnini Model
Hondaのクルマ、フリードのTVCMでは「ちょうどいい」いうフレーズが流れます。元々フリードのデビュー当時は、「This is 最高にちょうどいいホンダ」と言っていたらしいのですが、今回紹介いたします韓国人製作家 Shin-Hyuk Kwonのヴィオラがまさにそれなんです。
大きさといい、音色といい、価格(これは私が言うのではなく、皆さまの方で判断されることかもしれませんが…)といい、まさに「This is 最高にちょうどいい」のですね。
ヴィオラはヴァイオリンやチェロと違って、大きさもまちまち。そもそも音域をカバーするために必要となる理想的な大きさからは外れてしまっています。それは顎に挟んで弾かなければならないので、大きさには限界があるのです。それでもできるだけ大きい方、容積が大きい方が良いのではないかとボディサイズを長くしたり、横幅を大きくしてみたり、横板を高くしてみたりと、作る側は色々工夫してみたりします。言ってみれば何でもありなのがヴィオラなのです。
ただ奏者の側から言うと、体格からあまり大きなヴィオラを弾けない人もいます。無理して大きなヴィオラに挑戦したものの、身体を痛めて小さなヴィオラに戻るという専門家も少なくありません。プロは長い時間楽器を弾きますし、特にオーケストラ奏者は座って弾かなければならないので、立って弾くよりも余計に首や腰への負担が大きく、ボディサイズのたった1、2cmの違いでも身体に蓄積されるダメージは思いのほか大きいのです。
大きさは手ごろで、軽くて良い音がする楽器がどこかにないのだろうか?というのはヴィオラ弾きの尽きることのない永遠の悩みなのかもしれません。
今回ご紹介しますヴィオラは405mmと小さくはなく、大きすぎない大きさです。また、形(パターン)も特に幅を広くしたり、横板を高くしたりはしていません。敢えて言えば、モデルがグァダニーニ、G.B.Gudagnini ということだからでしょう、楽器の真ん中ウェスト部分、ミドルバウツがやや広めになってはいます。
そういうわけでこの楽器は外見上からは取り立てて味のある音、豊かな低音が鳴るイメージはありませんでした。ヴィオラは特徴のある形、時には不格好なくらいのものの方が、味のある音だったりします。(余談ですが、実はストラディヴァリStradivari のヴィオラはヴィオラ弾きにとってあまり魅力的には映らないと聞いたことがあります。それはStradのヴィオラは彼のヴァイオリン同様均整がとれていて、癖が無いからなのではないでしょうか。もちろん、Stradのヴィオラをあなたに差し上げますとか貸してあげますと言われたら、誰でもそれを断らないと思いますが・・・)
ところが、このShin-Hyuk Kwon作のヴィオラを鳴らしてみるとびっくり、このサイズ、そしてどちらかと言うとヴァイオリンを大きくしただけのような普通の形(パターン)にもかかわらず、この楽器は実に味のある、そして豊かな響き、柔らかな低音を奏でてくれるのです。その秘密を探るべく考えたのですが、この楽器はイタリア新作楽器としては、板が薄めで軽いことに気づきます。しかし、板が薄い、そして軽い材料を使用した楽器の欠点、嫌みが全く出ていないのです。
このブログを続けて読んでいただいている方はもうお気づきになられたことでしょう。このヴィオラの製作者、韓国人のShin-Hyuk Kwonは、このページの見出しを見ていただくと「Scrollavezza&Zanre工房作」と記載しています。そうです、彼は前回のブログでご紹介していますヴァイオリンの製作者Andrea Zanre の下で製作を学んでいる人物なのです。秘密を解く鍵はそこにありました。前回のブログで申し上げた「軽いが強い材料」というキーワードがまたしても浮かび上がってくるのです。
柔らかな深みのあるC線(低弦)しかし、スカスカでない密度のある芯のある音。強く弾いた時の音の伸び、抜けの良さなど、普通なら相反する要素を満たす秘密は、その材料の選択にあるのでは?という前回Zanreのヴァイオリンのときの推測、それがそのままこの韓国人製作家Shin-Hyuk Kwonの作ったヴィオラにもあてはまるのではないかと私は考えるのです。
同じ工房で、同じ人間に製作を指導されていれば、当然同じ傾向の材料を選択してもおかしくありません。
ただ、今回私は Shin-Hyuk Kwonの作った楽器を初めて見ました。1台見ただけで彼の才能、楽器作りの傾向を判断するには早すぎます。またScrollavezza&Zanreの工房、指導から離れていったときにどのような楽器を作れるのかはまだ未知数です。今後を見守っていきたいと思います。
しかしこの楽器を作った時点では全て上手くいったことは間違いありません。だって、目の前のこの楽器の存在自体(弾いてみれば一目いや一聴?瞭然)が証明していますから。
最後に私の本音を申しますとこのヴィオラ「ちょうどいい」どころではなく「かなりいい」です。
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