3.ショールーム訪問(2)
次に訪問したのは恵比寿にあるKS社のショールーム。ガーデンプレイスのすぐ近くにある会社なのだが、この日の半端でない暑さに駅から歩いていてうんざり。しばし三越で涼んでから出向く。
この会社の防音室はオフィス内に設置されているのだが広さが3畳とちと狭い。そこにアップライトピアノを置き、反響板(?)のようなものを天井、壁に取り付けているものだから、ヴァイオリンを弾こうにも弓が当たりそうで思い切りは弾けない。
普通ショールームというと比較的制約の少ない好条件下で作れるはずなので最高スペックのもの(つまり、ショールームだからこんなに良く作れたのでしょう的なもの) が出来るはずなのに、どーも中途半端という感じ。
すでに、MC社、Y社とそれなりの広さの、しっかりした防音室を見てきた目からは正直言ってかなり見劣りがする。
また対応してくれるのはいわゆる営業マンなのだが、床フローリングで見積もりをとっているのに、カーペットで見積もっていたりとどうにも締まらない。
その上、部屋の音響特性に関する考え方も「まず吸音ありき」という方針で、これまでMC社やY社で聞いてきた「ヴァイオリンはピアノと違い、ある程度響きの有る部屋作りにした方が心地よいはず」という定説と全くの正反対。
素人考えにもある程度響く部屋を後からコントロールしていった方が、ヴァイオリンの場合は良いだろうにと思うのだが、ここは楽器はピアノしか想定していないのかという感じである。
この狭い防音室では一度に何人も入れないし、だいいちエアコンも付いていないので長い時間試奏して音響をチェックすることもできない。営業マンの話も、参考になるような目新しいものは出て来なさそうなので、早々に切り上げ退散することとする。
ショールームを持つところは他にもまだ何社かあったが、遠方であったりして回る時間も取れないので、ショールームめぐりはこれで打ち切りにした。
次に打合せをしたPT社は社長自らが打合せに来られ、見積書を提示される。
こちらの見積もりは材料や性能を上げたプラン(ただし価格は高い)と、材料はそこそこに必要充分な性能を持たせたプラン(経済的)と2種類を提示してくれたので大変分かりやすい。
最高のプランにしても フルオーダーの割にはそれほど価格は高くないし、二つの見積書の仕様明細を見ながら、これは要らないとか、ここはこちらの方の仕様を採用しようとか、その二つのプランの折衷プランをその場で作ることができるのでこのやり方は大変便利だ。
また、社長を目の前に打合せをしているので判断が早く、どんどんプランが具体化していく。打合せにストレスが無いのは実に気持ちの良いものである。
ただ、この会社の難点はショールームを持っていないことなのだが、それも、ショールームは持たないがその代わりに実際に施工した物件を見せてくれるという。
しかも聞くと自宅周辺に物件が何軒かあるというではないか。実際に施工したものというのが一番臨場感があるので、ショールームを見るよりもむしろそちらの方が好都合でさえある。
PT社は社長自らが施工物件の案内、見積書の提示、打合せなどをこなしているので、連絡や質問への回答等レスポンスが実に早くスムーズである。
施工した防音室も2軒ほど見せてもらったが、遮音に関しては、防音ドア2枚仕様、窓は既存窓プラス二重窓等しっかりとした性能を持ち合せている。窓ガラスも最近は樹脂を挟んだ合わせガラスを使い出しているということで、MC社と同様窓からの高域成分の遮音には気を使っていることが見て取れた。
防音ドア2枚という仕様は、窓の考え方と一緒で、1枚を重く、厚いものにするよりもはるかに高い効果が得られるそうである。間の空気層が音の遮断に生きるからである。
防音ドアはD-35ぐらいの性能のものでもそれ自体かなり高価なものなのであるが、それ以上防音指数が高いものはなんと50万円以上にもなる。それが15~20万円程度のものを2枚使った方が価格は安く、遮音性能はより高いものにできるのである。グランドピアノなど大音量の楽器を弾く場合、自分の家の中にもドアから音が漏れないようにしたい場合はこの二重ドアが効果的であろう。
これらの物件ではP社の防音ドアを使用していたが、このドアはMC社のようなスタジオ風のごついハンドルではなく、普通のドアとほとんど変わらぬようなデザインのものが付けられている。しかし、Y社のように押して閉めるだけというような特殊なものではなく、最後にかちっと締まった感覚が得られるものである。
いかにも防音室といったスタジオ然とした部屋を目指すのならばMC社のドアハンドルはプロ仕様的で悪くはないが、普通の居室としても使いたいという場合にはこのP社のドアは全く違和感が無い。こういう商品の存在を知ると、防音室と言えども、ある程度はインテリア性にも考慮したものにしたくなってくる。
また壁をクロス張りではなく珪藻土にしたプランなども見せてもらった。
珪藻土は自然素材ということで、巷でも消臭効果や調湿効果などで注目されているが、その超多孔質構造は適度の吸音壁としても働くことが期待され、クロス張りよりも柔らかい響きが得られる可能性が高いそうである。もちろん珪藻土はクロスよりはコスト高にはなるが、インテリア性だけではなく、調湿、響きにメリットがあるのであれば楽器を弾く防音室としては採用する意味はある。
2軒の施工例を見せてもらっただけではあるが、PT社には基本性能ばかりではなくインテリア性も考慮した防音室を作り出す柔軟な対応力があると感じることができた。これは大きな収穫であった。
防音室は遮音だけではなく、部屋の中の響きを心地よいものにすることが大事だと前回のレポートで書いたが、今回PT社の施工例を見るにつけ、それにプラスして居室としての心地よさ、すなわちインテリア性も大切なことなのではないかと思った次第である。
最初は全くぼんやりとしていたが、目指す防音室のイメージがだんだんと固まりつつあることが自分でも実感されるようになってきた。