ALCD-7155
ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ集
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第6番 Op.30-1
ヴァイオリン・ソナタ第7番 Op.30-2
ヴァイオリン・ソナタ第8番 Op.30-3
ヴァイオリン:ジャン=ジャック・カントロフ ピアノ:上田晴子 録音:2010年 5月
以前のブログでご紹介したCD ベートーヴェン ヴァイオリンソナタ ジャン=ジャック・カントロフの 第2弾。
このベートーヴェンのソナタ3曲は献呈されたロシア皇帝の名前を取り、《アレクサンダー・ソナタ》とも呼ばれることがあります。しかし、献呈の際には報酬は払ってもらえず、その12年後に皇后エリザベートから「夫は支払ったか?」と聞かれて、否、と答え、ようやく報酬を受け取ったそうです。
この頃は耳が聞こえなくなり始めて絶望して、ハイリゲンシュタットの遺書を書いた頃でもあります。
しかしながら、6番や8番などを聴きますと、遺書を書いたばかり、あるいはこれから書く人の作とは思えない曲ですね。
さて、このCDのカントロフと上田の演奏ですが、前回同様、音符の読み込みについては深いものがあります。
まず、テンポの取り方でまず「おっ」と思わせられるのはソナタ7番の第3楽章。前CDのスプリング・ソナタのときもそうでしたが、かなり落ち着いたテンポで弾いています。
この辺のことはまたライナーノーツに上田が書いているのですが、
ハ長調、《春》ソナタのスケルツォのように、4分の3拍子なので落ち着き目のテンポにしている(カントロフが「リズムが軍隊風、と言っても、これは戦争から帰る兵が銃の中に花を入れて行進している感じ」と言っていた)。
とのこと。普通の演奏だともっと歯切れよく、軽快な感じで弾かれますが、カントロフで聴くとなんとのどかなことか。
上田が書いた他の曲の解説の随所に、「カントロフがシューベルト風に弾きたいと言った」というようなことが書いてありますが、カントロフはこのソナタ集で、意思の人ベートーヴェンを演じるのではなく、シューベルトのような歌心を持ったベートーヴェンを演じようとしたのではないかと思います。
以前、私は激しいだけのベートーヴェンのソナタを日本の女流ヴァイオリニストの手で聴かされて、閉口した記憶があるのですが、カントロフはそれとは全く対照的なアプローチと言えるでしょう。
前にご紹介した ベートーヴェン ヴァイオリンソナタ全集 ルノー・キャプソン の演奏もなかなか優雅で美しいものでしたが、やや表面的な美しさに留まっている嫌いがありますね。カントロフの演奏はもっと内面まで踏み込んだものと言えそうです。
こうなると、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの頂上と言うべき《クロイツェル》がどのような演奏になるのか、早くも期待が高まりますね。