モーツァルト 協奏交響曲 K.364
ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 K.423
ヴァイオリン:イーゴリ・オイストラフ
ヴィオラ: ダヴィッド・オイストラフ
指揮:キリル・コンドラシン モスクワフィルハーモニー管弦楽団
ヴァイオリンの名手がヴィオラも弾くというのは実はそう珍しいことではありません。すぐ思い浮かぶ演奏家としてはヨゼフ・スークやピンカス・ズッカーマンなどが挙げられると思います。
ヴィオラはチェロとは違い、ヴァイオリン同様顎に挟んで弾く楽器であること、特にヴィオラ用にヴァイオリンと違った特殊な弾き方が要求されるわけではないことから、ヴィオラをヴァイオリンと持ち替えで弾く(弾ける)演奏家も少なくないのです。
このCDでは息子のイーゴリに主役のヴァイオリンを任せ、ダヴィッドがヴィオラを弾いておりますが、完全に息子を食ってしまっています。
ヴィオラというとその大きさや、その独特の音色から、どうしても運動性が後退して聴こえてしまうのですが、このダヴィッド・オイストラフの演奏は全くそういったことを感じさせません。バリバリと爽快に弾きまくっています。
もちろんヴァイオリンの名手であっても体格的にヴィオラに向かない、ヴィオラが弾けないという演奏家もいるので、ヴァイオリンの名手なら誰でもこのように弾けるとは思いませんが、ヴァイオリンでの演奏能力が完璧だと、ここまでヴィオラが弾けてしまうのかということをこのCDは証明してくれているように思います。
ところで、現在世界的なヴィオラの名手に日本人が多いことはご存知でしょうか?
今井 信子、深井 碩章、岡田 信夫、川崎 雅夫、店村 眞積、 豊嶋 泰嗣、 川本 嘉子、 清水直子その他まだまだ優秀な方がいらっしゃいます。
これらの演奏家を見てみますと桐朋学園の出身者が多いことに気がつきます。
となると、優れたヴィオラ奏者育成のための何か重大な秘密が桐朋学園の教育に隠されているのではと思いますが・・・・。
それは、桐朋ではヴァイオリン弾きでも学生の間はローテーションで必ずヴィオラを弾かされるということなのです。おそらくそれは教育方針というほどのものではなく、あくまで必要に迫られてそうしているということだと思うのですが。
桐朋学園の場合、ヴィオラ専攻の人数が少ないので、オケや室内楽をやる際ヴィオラパートが不足します。それで、ヴァイオリンの人たちは止むを得ず、場合によっては半ば強制されて、ヴィオラを弾くようになるのです。
ただ、そうやってヴィオラを弾いているうちに、ヴィオラという楽器の魅力にハマってしまう人たちも現れました。ヴァイオリンから転向し、片手間ではなく、本格的にヴィオラに取り組もうという意欲のある人が出てきたのです。その中にはヴァイオリンでのコンクール歴を持つような優秀な奏者も含まれていましたので、世界的に評価されるようなヴィオリストへの道が拓けていったのではないかと思います。
先に書きましたように、ヴィオラはヴァイオリンとそう弾き方が違わないために、ヴィオラ固有のメソッド、流派が存在しません。また伝統的にヴィオラはソロ楽器としてよりも、アンサンブル楽器として重視されるような時期が長かったために、欧米でもソリストが多く出てくるような背景が無かったのではないかと思います。そのようなことから、ソロヴィオラの世界では、日本のようなクラシック音楽後進国であっても欧米に対してのハンデが全く無かったのでしょう。そういった事情も日本のヴィオリストの挑戦に有利に働いたことと思います。
ちなみにこのCDはXRCDという技術でリマスタリングされたもので、そのためにすこぶる音も良くなっています。ヴィオラ、ヴァイオリンのソロはもちろんのことバックのオーケストラの広がり感、空気感の表現力には実に素晴らしいものがあります。お値段はちょっと高めですが、弦楽器の素晴らしい響きが味わえると思います。