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オイストラフ|J.S.バッハ無伴奏ソナタ&パルティータ全曲|CD

ヴァレリー・オイストラフ CD
MUSICOM/CD 020717

オイストラフのバッハ無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータの全曲の録音があったなんて知らなかった!とびっくりされた方、落ち着いてください。オイストラフと言ってもこちらは有名なダヴィッドではなくその孫のヴァレリー・オイストラフのことなのです。

ヴァレリーは祖父にダヴィッド・オイストラフ、父にイーゴリ・オイストラフを持ち、音楽一家の中で育ちました。モスクワの中央音楽院で父の生徒であったザハール・ブロンに師事し、ヴィニアフスキー国際ヴァイオリンコンクール優勝。現在、ブリュッセル音楽院にて教鞭を執っています。

実は祖父も父も、バッハ無伴奏の録音は第1ソナタ1曲しか残しておらず、三代目にして全曲録音を成し遂げたということなのですね。あのダヴィッドにしても、おいそれとはバッハ全曲録音には取り組めなかったのでしょうか。

演奏は、ピリオド奏法を現代楽器に取り入れたというような今風のバッハ演奏ではなく、どちらかというと昔風、古典的な演奏です。しかし、全ての音を音符一杯鳴らしきる、というような往年の巨匠の重厚で骨太の演奏とは違い、ヴァレリーの音はどこまでも優しくしなやかで堅苦しさがありません。

バッハというと、こちらも正座をして聴かないといけないような厳格なイメージがどうしてもありますが、ヴァレリーの演奏には仕事をしながらでも軽く聴き流してしまうことができる心地よさがあります。

反面そのような演奏なので微温的と感じられなくもありません。
(畏れ多くもブリュッセル音楽院の教授に何を申すと言われるかもしれませんが)それが問題となるのは、各ソナタの2楽章におかれているフーガ、パルティータ2番のクーラント、パルティータ3番 ブーレ、ジーグのような速い楽章です。どうしても音楽の推進力が足りなく、停滞して聴こえてしまいます。
速く弾き飛ばせば元気が出るというものでも無いとは思いますが、これらの楽章のテンポ設定はちょっと遅すぎるのではないかと思ったりします。音は綺麗でもこれでは音楽の生命力、躍動感が失われてしまうと思います。

三代かかってバッハ無伴奏全曲録音にこぎつけましたが、ヴァレリーの演奏を聴いてみると、祖父ダヴィッドを超えるほどのものにはなっていないと感じます。と言うより、やはりダヴィット・オイストラフが偉大なヴァイオリニストだったと言うべきでしょうね。