Spectrum Sound /CDSMAC005
アルフレード・カンポーリのメンコン
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調 Op.64
ブルッフ:スコットランド幻想曲 Op.460
ヴァイオリン:アルフレード・カンポーリ
エイドリアン・ボールト指揮 ロンドン交響楽団
録音:1958年5月
以前にもう一つのメンコンをご紹介いたしましたが、本日ご紹介するのは正真正銘いわゆる有名なメンコン、ホ短調の方です。
冒頭からの名旋律で聴衆の心はぐっと惹きつけられ、上級者のおけいこ名曲として、また、ヴァイオリン弾きなら誰もが弾いてみたいとあこがれる曲なのですが、誰でも知っている曲というのは非常に怖いものがあります。それは、ちょっとした音程の狂い、弾き間違いでもすぐにバレてしまうからです。
ですから、試験やコンクールで弾くのは並大抵のことではありません。逆に言えば、曲が自由に選択できるのに、わざわざメンコンを選んだという場合は、奏者の方で相当聴かせる自信があるというように取られてもしかたないと思います。
名曲ゆえ数多くの録音が存在しますが、本日ご紹介いたしますのはアルフレード・カンポーリの演奏です。
カンポーリは1906年ローマ生まれ。1991年没。父ロメオは聖チェチリア音楽院ヴァイオリン科教授兼、アウグステオ交響楽団の首席奏者でした。5歳のときに、ロンドンに移住。12歳でロンドンの音楽祭に出場。15歳でデビュー・リサイタルを開き、その大成功が彼の世界的演奏家としての栄光の道を開きました。日本へも1960年夏に初来日、そして1966年にも再来日を果たします。
左のCDはその1966年の来日時に日本でレコーディングされたものです。日本の曲「赤とんぼ」「城ケ島の雨」2曲を含む、11曲の素敵な小品集となっています。(YMCD 2001)
天才少年としてデビューし、世界中を演奏して回り、来日も果たしたカンポーリが今日あまり知られていないのは、やはり録音の少なさ、CDの手に入りにくさでなのでしょうか。でも埋もれさせておくのには実にもったいない演奏家です。
カンポーリの素晴らしいところは、まずその歌心でしょう。それをいかにもイタリア人らしくと言ってしまえば実に陳腐な表現なのですが、本当に伸びやかなヴァイオリンの音です。
メンデルスゾーンのこの協奏曲はこのように淀みなく歌って欲しいですね。しかしながら、その歌は過度に感傷的だったり、野放図なものではなく、気品に溢れているのです。まさに理想的な名演と言えるのではないでしょうか。
そして驚くべきは、彼のテクニックの正確さです。スコットランド幻想曲の速い部分を聴きますと、ハイフェッツかと見まがうくらいのキレがあります。
しかし、ただ正確に弾けるだけですと、この曲は単調な練習曲みたいになってしまうのですが、カンポーリの場合は決してそうはなりません。どんな細かい音符にも心がこもっているのです。ビールのCMみたいですが、カンポーリは「キレがあるのにドライでない」のですね。
つい最近スペクトラム・サウンドというちょっとマニアックなレーベルから、このCDが出されました。(何と、これはLPレコードからの復刻=いわゆる板起こしなのですが)ノイズもなく、それでいてヴァイオリンの高音域の伸びも全く不足なく、高音質で復刻されています。是非、カンポーリ再考ということで一度お聴きになられてみてください。