FOCD 3437
グリーグ ヴァイオリン・ソナタ全曲
ヴァイオリン・ソナタ 第1番
ヴァイオリン・ソナタ 第2番
ヴァイオリン・ソナタ 第3番
録音:1998年 5月
ヴァイオリン:伊藤 奏子 ピアノ:フィリップ・モル
伊藤奏子は岩手県、宮古市出身。1986年、桐朋女子高等学校音楽科に入学し、久保田良作、久保良治に師事。高校卒業後はパリ国立音楽院に留学し、ミシェル・オークレールに師事しました。その後、オークレールを追いかけ、ボストンのニューイングランド音楽院アーティストディプロマコースに移ります。
同音楽院では5年間学び、エリック・ローセンブリッス、ピンカス・ズッカーマン、ステファン・ゲオルギューのマスタークラスに参加。そして1993年、第49回ジュネーヴ国際音楽コンクールで第2位を受賞しました。
2000年9月、カンザスシティー交響楽団のコンサートミストレスに就任。(現在は同団体の名簿には彼女の名前は無いようです。)
グリーグのソナタというと第3番の演奏頻度が圧倒的に高いですが、1番、2番もすごく魅力的な曲だと思います。私は特に2番が好きですね。どちらかと言うと、3番の1楽章はどうも好きになれません・・・。
伊藤の演奏は民族色を強く打ち出したものではありませんが、それだけに、堅実な技巧、透明感のある音色で、グリーグのソナタの普遍的な魅力を我々に知らせてくれるように思います。
このCDのもうひとつの試聴ポイントは伊藤奏子の使用楽器、Riccardo Antoniazzi 1908です。
色々なCDを購入して、注意深く見ていると、使用楽器をライナーノーツ類に明記していることが結構あります。だいたいそれはいわゆるオールド銘器のことが多いですよね。しかし、最近では(このブログでもいくつか紹介しておりますが)新作ヴァイオリンを使用しているケースも増えてきています。
ところが、それに反していわゆる“モダン”の時代のヴァイオリンを使用していることをライナーノーツや取材等で明らかにしている事例は極めて少ないのです。
この伊藤奏子の場合もライナーノーツに記載している訳ではないのですが、どうしてそれを知ったかと申しますと、(確か何年か前の月刊ストリングだったと思うのですが)取材記事の中で、伊藤がRiccardo Antoniazzi のヴァイオリンを使用していることを明かしていたからなのです。
イギリスでこの楽器に出会われたときのことが詳しく書いてあったような記憶がありますが、大変素晴らしい楽器だったそうです。
その記事を読んでしばらくして、伊藤奏子が日本でリサイタルを開くことを知りました。私はAntoniazzi のことがどこか頭の片隅に残っておりましたものですから、聴きにいくことにしました。
モダンイタリーのヴァイオリンは商売道具としては常に触れているので、身近な存在なのですが、音大生などではなく、著名な演奏家が実際にホールで弾くのを聴いたことは無かったので、是非聞いてみたかったのです。ですから私は興味津々でリサイタル会場の上大岡ひまわりの郷に向かいました。
350席前後の響きの良いホールだったことはありますが、その楽器の音はオールド銘器にひけをとらない全く申し分の無い音をしておりました。響きはクリーンでいながら、深みもあるという感じでしょうか。オールド銘器でも音がこもり気味で通らないこと、ピアノ伴奏にマスクされてしまうことがありますが、伊藤のヴァイオリン Riccardo Antoniazziの場合はそういったことはありませんでした。
それと全く同じ体験ができるかどうかはわかりませんが、このCDはその時に聴いた音を彷彿とさせるものがあります。
モダンイタリーというと、音が固い、低音が響かないこなれていない楽器も多いのですが、なかにはこのように本当に良い音の楽器もありますね。言うまでもなく、それは Riccardo Antoniazzi 作 だから素晴らしいというよりは、個体差の方が大きいと思います。この個体、この楽器がたまたま素晴らしいものだったのです。
まずはこのCD聴いてみてください。