バイオリニストに花束を
中央公論社 ISBN978-4-12-004113-6
鶴我 裕子
元N響のヴァイオリン奏者である鶴我裕子のエッセイ第2弾。
前作は バイオリニストは肩が凝る ですが、文庫本化を機に題名はなぜか『バイオリニストは目が赤い』に改題されています。
前作に比べると“毒”は随分抜けたように思いますが、鶴我の筆の冴えは健在。
やはり面白いのはN響(彼女はN狂、あるいはカイシャと言っていますが)の舞台裏が生々しく描かれていることでしょう。
いくつか挙げてみますと
『お客様の中に指揮者はいらっしゃいませんでしょうか』
指揮者のアシュケナージが地震に驚いて指揮棒を手に刺してしまい、後半のプロ、チャイコフスキーの交響曲第4番を指揮者無しで演奏した話。
『チョン・キョンファとヒラリー・ハーン』
神経質だったチョン・キョンファの変貌。弾き始めの音でサッと耳目を集めてしまうまるで大家の音のようなヒラリー・ハーン。ほんの数メートルのところでソリストの生音を聴ける、共演者の特権ですね。
『「災」と「キャンセル」の定期公演』
急遽代役に立った弱冠19歳のセルゲイ・ハチャトゥリアンのベートーヴェンの協奏曲の素晴らしさ。
クレーメルが初めてN響に来たとき、あまりにひどい弓だった話。
『ノリントン演出・振付によるベートーヴェン』
古楽器奏法(ノン・ヴィブラート奏法)などを強要するノリントンと楽員との攻防。いかにノリントンが楽員をヨイショしてやらせていたか等の話。
などは、どれも現場に居合わせなければ書けない内容ですね。こんなことまでバラして良いのというようなことも書かれています。
また、アシスタントコンマスの苦労を綴った『知られざる難行~コンマスの左隣り~』も日本のオケ事情に詳しい筆者ならではのスポットの当て方でしょう。アシスタントコンマスって数まで数えていてあげないといけないんですね。
オーディオと音楽家の関わりで興味深い話なのが、『バレンタインデーに現れた真空管の達人』です。やはり、音楽家は既存の装置の音には満足できなくて困っているのですね。でもブランドに関係なく、自分の耳で判断するところはさすがですね。
あまりネタをばらし過ぎては何なので・・・続きはどうぞご自分で本を購入されてお読みになってください。