ミュンヘン音楽大学自主制作 CD 24
ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 アナ・チュマチェンコ
録音:2001年 11月
アナ・チュマチェンコ・クラスのヴァイオリニストたち でチュマチェンコの弟子たちの演奏をご紹介しましたが、本日はチュマチェンコ本人の演奏CDです。
名教師と言っても演奏家としてのピークを過ぎてしまったから教師をやっている人、演奏家としてよりも指導者としての方が向いているから指導者を志した人等、色々なタイプの人がいると思うのですが、聴いていただければおわかりになると思いますが、このアナ・チュマチェンコの場合は間違いなく名演奏家=名教師というタイプですね。
何も奇をてらったような表現をせず、これだけベートーヴェンをしみじみ聴かせるというのは演奏家として相当の腕前なのではないでしょうか。
まずヴァイオリンの音の美しさに耳を奪われます。と言ってもふわっとした軽い美音系ではなく、むしろ濃い音なのですが、それが決してコテコテではなく、純度の高い水晶のような透明感のある音なのです。私はまだ実際にアナ・チュマチェンコの生のヴァイオリン演奏を聴いたことは無いのですが是非聴いてみたいものですね。
そして、アーティキュレーション、フレージングがいかなるときも明確です。その背景には間の取り方やルバートを相当緻密に計算しているのではないかと思います。緻密に計算しながらそれが自然に聴こえる。これが一番難しいことだと思います。緻密に計算されていない場合は、音符の長さや音型が行き当たりばったりの気まぐれなものになりがちです。そういった場合、ベートーヴェンやモーツァルトの協奏曲だと古典的なすっきりした曲調が損なわれてしまいます。もちろん何もやらなければぶっきら棒で退屈な演奏になってしまうので、その塩梅が難しいのだと思います。
モーツァルトやベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は演奏者の真の実力、音楽づくりの趣味、美的感覚などを裸にしてしまうので実に怖い音楽だと思います。
そういったことを考えると、オーケストラの入団試験で必ずモーツァルトのヴァイオリン協奏曲が出題されるというのも良くわかりますね。