UCBG-1209
ポートレート ヒラリー・ハーン
ドキュメンタリー
ベルリン・フィルハーモニーの舞台裏(ベルリン)
カーティス音楽院(フィラデルフィア)
『イエロー・ラウンジ』でのバッハ演奏(ドレスデン)
アビー・ロード・スタジオにおけるレコーディング(ロンドン)
香港、ベルリン
コンサート映像
コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲 ケント・ナガノ指揮 ベルリン・ドイツ交響楽団
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタト長調 K.301
使用楽器:Jean Baptiste Vuillaume 1864
今回はヒラリー・ハーンのDVDをご紹介いたしましょう。2003年から2004年にかけて収録され、2005年1月にドイツのテレビ局で放映されたベネディクト・ミロウ監督のドキュメンタリー・フィルムです。
公演前後の舞台裏、リハーサル、母校カーティス音楽院にカメラが入って行き、世界中を飛び回る売れっ子のヴァイオリニストの素顔に迫ります。
何と言っても嬉しいのは随所に入る演奏シーン。彼女の愛器であるJ.B.Vuillaume 1864 もたっぷりと見ることができます。更に、ボーナス映像として、コルンゴルトのヴァイオリン協奏曲全曲とモーツァルトのヴァイオリン・ソナタがノーカットで収録されています。これはヒラリー・ハーンならずとも興味深いDVDだと思います。
彼女の魅力はまず端正な演奏スタイルではないでしょうか。ですから、モーツァルトにはまさにうってつけだと思います。
そして軽やかで正確なテクニック。弓はいくぶん張り気味ですが、全く押さえつけている風ではありません。コルンゴルトの3楽章のスピード感、切れ味には全く舌を巻かされます。
逆にあざとさのようなものが欲しい音楽の場合はちょっとあっさりし過ぎかもしれません、パガニーニの協奏曲第1番のCDを聴いたときに、文句なく上手いんだけれど何故か物足りなく思った記憶があります。大口上を述べるみたいな大袈裟なところがあってもこの曲の場合は良いのだと思いますが、彼女の美意識はそういった弾き方は許さないのだと思います。
そして、彼女のJ.S.バッハですが、これは今風のピリオド奏法を取り入れたものではありません。かと言って、シェリングや江藤俊哉のような巨匠スタイルのどっしりとしたものでもありません。古楽器奏法から見れば、テンポはゆっくり目、フレーズは粘り気味ですが、巨匠スタイルからすると、それよりはもっと軽く、しなやかです。ヒラリー・ハーンのバッハは彼女独特の世界を持っていると言えるでしょう。日本人はとかくバッハを厳格で神聖なもののように思いがちですが、彼女の弾くバッハはそのようないかめしさは無く、優しくて聴いていると心に染み入るバッハだと思います。そのようなバッハも魅力的ですね。