Solo Musica / SM 131
DOGADIN
チャイコフスキー:
瞑想曲(『なつかしい土地の思い出』より)
ワルツ・スケルツォ
メロディ (『なつかしい土地の思い出』より)
ラフマニノフ:ヴォカリーズ
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 *
ローゼンブラット:カルメン幻想曲 #
ヴァイオリン:セルゲイ・ドガディン
ピアノ:アレクサンドル・マスロフ* アレクサンドル・ローゼンブラット#
録音:2008年 3月
使用楽器:Jean Baptiste Vuillaume
セルゲイ・ドガーディンは第14回チャイコフスキー国際コンクールで最高位(1位無し)を取ったヴァイオリニストです。1988年サンクトペテルブルク生まれ。6歳でヴァイオリンを始め、多くの国際コンクールで優勝しております。
このアルバムの選曲ですが、おやっと思ったのがカルメン幻想曲。サラサーテでもなくワックスマンでもないローゼンブラットという人のもの。良く見るとこのCDの共演者でもあります。何故、この曲だけピアニストが違うのか?とも不思議に思いますが、まあ1曲目から聴き進めていきましょう。
すると、いきなり違和感が。CDジャケット、およびライナーノーツには1曲目が《憂鬱なセレナード》となってるのですが、流れてきた曲は《瞑想曲》。これは手痛いミスですね。しかし、演奏はいたってまともなものです。
奏者の息遣いが聴きとれるほどのリアルな録音なのですが、残響音も十分に取り入れられ、音にきつさは全くありません。むしろ、そのリアルな録音のせいでピアニッシモでの繊細な表現が生きています。瞑想曲でのすすり泣くような表現はボーイングの見事なコントロールの成果でしょうが、この録音あってのことだと思います。良い意味での粘りのある演奏だと思います。《ヴォカリーズ 》なども同様に滑らかで美しい演奏です。
《ワルツ・スケルツォ 》のような技巧的な曲でもドガーディンは徒に速いテンポを取って弾き飛ばすようなことはしません。実に丁寧に優雅に弾いています。
プロコフィエフのソナタは第2番(フルート・ソナタからの編曲)は聴き易いメロディアスな曲なのですが、第1番の方はシリアスでちょっと取っつきにくいところがあると思います。しかし、ドガーディンの演奏はことさら深刻になり過ぎずに、こちらの緊張感を解くように全曲を聴かせてくれました。今まではどこか構えて聴くようなところがあったのですが、何かこの曲との距離が少し狭まった気がいたしました。
さて、最初に何だろう?と思ったカルメン幻想曲ですが、いきなりびっくりされられます。冗談音楽?いや、ジャズ?ちょいワルオヤジ風?ちょっと違うか、なんだこりぁ? あわてて、作曲者のことを調べてみました。
アレクサンドル・ローゼンブラット
1956年生まれのユダヤ系ロシア人。
ニコライ・カプースチンに継ぐコンポーザー・ピアニストとしてモスクワを拠点に活躍中。モスクワ音楽院をピアノ専攻で卒業し、1980年代より作曲活動も開始。エンターテイメント性の高い作品を生み出すことで注目されている。
ジャズ、ロック、ラテン、ロシア民謡、クラシックなど、多くのジャンルの音楽語法を取り入れた曲想は大変ユニークなものだが、ウィットにとんでいて親しみやすい。
また、ラフマニノフなどロシア音楽を代表する大家に深く敬意を持っており、自身の作品にもその影響が見え隠れする。
ジャズピアニストのオスカー・ピーターソン、クラシックの演奏家ではホロヴィッツを好んでいるという。ジャズの語法を取り入れた曲調を持ち、華やかな演奏動作を必要とする作品群は、視覚的にも楽しめる効果的なパフォーマンスを生み出している。作品の編成は多岐におよび、ピアノソロ、ピアノデュオ、室内楽、合唱、オペラ、ピアノ協奏曲、オーケストラ、ブラスバンド、ミュージカル、氷上バレエ音楽、映画音楽、サーカス音楽など様々である。
(ピティナ ピアノ音楽事典より)
これで、共演のピアニストがこの曲だけ違っている訳がわかりました。この人でなければ弾けない語法、フィーリングがこのカルメン幻想曲にはあるのです。
そういうわけで、サプライズはこのCDの最終曲にありました。
サラサーテ、ワックスマンで飽き足らなくなったヴァイオリン奏者が、そのうちにこの曲をこぞって弾くようになるのかもしれませんが、カルメン幻想曲、私の個人的な好みからしますとやはりサラサーテ作が一番ですね。