Green Door GD-2026/7
ローラ・ボベスコ・リサイタル(1980)
ルクレール:ヴァイオリン・ソナタ ニ短調
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン・ソナタ ニ長調
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ
ストラヴィンスキー:イタリア組曲
フランク:ヴァイオリン・ソナタ
エスページョ:プレスト
ファリャ:歌劇「はかなき人生」~スペイン舞曲第1番
バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番~サラバンド
パラディス:シチリアーナ
ヴァイオリン:ローラ・ボベスコ ピアノ:柳澤(小松)美枝子
録音:1980年1月21日
ローラ・ボベスコ(1921-2003)はルーマニア生まれ。ベルギー国籍の女流ヴァイオリニストで、フランコ=ベルギー派の流れを組む名手のひとりである。パリ音楽院でジュール・ブーシュリに師事、卒業後はジョルジュ・エネスコ、ジャック・ティボーといった巨匠にも教えを受けました。1937年にウジェーヌ・イザイ・コンクール(現在のエリザベート王妃国際音楽コンクール)で第7位となり、それ以降国際的に活躍するようになりました。因みにその時の第1位はダヴィッド・オイストラフでした。
親日家としてボベスコは日本にたびたび訪れていますが、1980年の初めての来日のときは、個人招聘だったというのですから驚きです。
このCDはその初来日時のリサイタル(於 芝ABC会館ホール)のライブ録音なのです。さらに、音源は個人的な記録としして保存していた録音テープということなので、まさに貴重なものと言えるでしょう。
実際に聴いてみますと、そういった歴史的な意義を抜きにして、観賞用として大変立派で素晴らしいCDであることがわかります。
まず、録音ですが、30年前の記録録音とは思えない鮮明さです。
ややピアノの音に歪っぽさ、ワウフラッター的な音の揺らぎやノイズを感じますが、ヴァイオリンの観賞には全く支障はありません。もちろん、今日のマスタリング技術の進歩、エンジニアの優れたセンスのおかげだとは思いますが、ヴァイオリンの音の瑞々しさ、生生しさには驚かされます。拍手の音を聴きますと、高域成分が随分丸く聴こえるのですが、ヴァイオリンの音にはそういったネガティブなところは見当たりません。録音年代など忘れて誰もがボベスコのめくるめく音色の変化に魅了されてしまうことでしょう。
商品化を前提にした録音ではなかったので、ステージに登場する足音や調弦の音までも入っているのですが、それがまた臨場感を高めているようにも思います。
プログラムはバロックから近代までバラエティに富むものですが、どれも楽しめました。
もちろん、1980年ですからバロックといってもピリオド的な奏法ではありませんが、ルクレール、ヴィヴァルディでの端正で軽やかな演奏は非常に可憐でチャーミングです。
それとは全く対照的にフランクでは堂々とした肉厚の演奏、音色に変化いたします。特に第3楽章での低弦の音の太さ、宇宙空間に音が広がっていくようなスケールの大きさにはただただ感服いたしました。
ライナーノーツに因りますと、この初来日時にボベスコはGuadagniniを持ってきたとあります。この豊かな低音の響きは楽器の特徴かもしれませんね。
全体を通して感じますのは、ライブということもありますが、良い意味での外人特有の演奏の勢い、音楽の流れを感じさせてくれることでしょうか。こういった演奏上の流れ、思い切りの良さというのはもっと日本人が学ぶべきだと思います。どうしても日本人はミスを恐れたり、アンサンブルを重視して流れが滞ったり、思い切って弾けなかったりしますから。
ただ外人の生演奏の場合、時として、勢いや流れはあるけれど、さらっていない、老いて技術が落ちてきた等の要因から雑な演奏を聴かされることもありますね。有名な演奏家のリサイタルで、CDや若いころの演奏と随分違うことにがっかりされたことがきっとどなたにもあるのではないでしょうか。それはそれで困りますよね。高いチケット代金を払わされているのですから・・