ALCD-7146
木もれ日の径-円熟のデュオによるソナタと小品集-
ヴァイオリン:安永 徹 ピアノ:市野あゆみ
モーツァルト:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第28番 KV304(300c)
ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第2番
エルガー:夜の歌 Op.15 No.1
エルガー:朝の歌 Op.15No.2
ブーランジェ:ノクターン
ブーランジェ:行列
ピアソラ:言葉の無いミロンガ
シューマン:夕べの歌 Op.85No.12
シューマン:私のバラ Op.90 No.2
クライスラー:愛の哀しみ
コンサートマスターソロシリーズ。今回はベルリンフィルのコンサートマスターだった安永徹のソロCDの紹介です。
安永徹は1951年福岡生まれ。桐朋学園在学中の1971年に日本音コン1位受賞。桐朋学園卒業後75年ベルリン芸術大学に入学、ミッシェル・シュヴァルベに師事いたします。77年ベルリンフィル入団。1983年より2009年まで同楽団の第一コンサートマスターを務めます。
現在は日本に帰国し、演奏活動、教育活動を精力的に行っています。
2006年より洗足学園音楽大学・大学院客員教授。
同じベルリンフィルのコンサートマスターでも師匠の ミッシェル・シュヴァルベの演奏 とはちょっと趣が違います。もちろん選曲が違っているということがあると思いますが、かなり安永の演奏はロマンティックと言いますか、濃厚な表現になっています。シュヴァルベの方がもっとストレートな演奏だったと思います。これは同じオケのコンマスではあったわけですが、この2枚のCDで比べる限りは、安永の方が、自分の個性、解釈を強く打ち出そうとする姿勢が強いように思えます。
曲のテンポにもそれは顕著に表れていまして、例えばブラームスの2番のソナタの第1楽章などはかなり遅いテンポを取って、ゆっくりと進んでいきます。どこかさらっと流していってしまうのを惜しんでいたり拒んでいるかのようです。普通このようなテンポを取りますと音楽が停滞してしまったり、日本人の場合は歌い過ぎて演歌調になってしまいがちなのですが、そうならないのは長い間ヨーロッパに住み、デュオを組んできたこの二人ならではの阿吽の呼吸のようなものがあるからでしょうね。
また愛の哀しみのテンポの揺れ、ダイナミクスはこれまでどの奏者からも聴いたことのないほどの幅の大きさを感じます。かなり自由なのですが、ロラン・ドガレイユ の自由さとはまた違ったニュアンスですね。もっとしっとりとしているというか、しみじみとした雰囲気と言いましょうか、適度な重みがある中での自由さといった感じがいたします。この愛の哀しみの演奏ですが、クライスラーの自作自演 のさらっとしながらも味のある表現と、まるで人生を振り返るようなしみじみとした語り口の安永。貴方はどちらがお好みでしょうか?
録音はかなりホールトーンを取り入れた残響豊かなものですが、響き過ぎて困ることは決してなく、ヴァイオリンの音は大変クリアに録れています。つやつや、つるつるの滑らかさ一点張りの音ではなく、木の肌を思わせるような(良い意味での)ヴァイオリンの素の姿、ざらつき感、毛羽立ち感がリアルに録音されていると思います。
録音:2008年 1月
使用楽器:Stradivari 1702 “Lord NewLands”(日本音楽財団より貸与)