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更紗の響き ~ヴァイオリンとピアノ、六人の名匠たち~
ドビュッシー:ヴァイオリンソナタ
シューマン:3つのロマンス
タルティーニ:悪魔のトリル(初刊版)
ストラヴィンスキー:ディヴェルティメント(バレエ『妖精の口づけ』より)
モーツァルト:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ト長調 KV301
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン
ヴァイオリン:ノエ・乾 ピアノ:パク・スミジャ 録音:2010年 8月
使用楽器:Nicola Gagliano
ノエ・乾は1985年ベルギー、ブリュッセルにて日本人画家でバイオリン愛好家の父と、ギリシャ人の母の間に生まれました。ブリュッセルの音楽アカデミーおよび王立音楽院でフランコ・ベルギー派の正統後継者ジャック・デュブリエとヴェロニク・ボガールツにヴァイオリンを学びました。2001年パリ国立高等音楽院へ進み、04年首席で卒業。教授はオリヴィエ・シャルリエ。同年カールスルーエ国立音楽大学入学、ウルフ・ヘルシャーに師事します。2005年シベリウス国際コンクール特別賞受賞、2006年ヴァルセージア国際コンクール第3位を経て、同年イタリアのアルベルト.クルチ国際バイオリンコンクール1位。ニューヨーク・ヤング・アーティスト国際コンクール第1位等多くの受賞歴を誇ります。デュッセルドルフ在住。
ノエ自身は5ヶ国語、父は7ヶ国語、母は9ヶ国語を話すというコスモポリタンな家系。そのようなこともあって、このソロ・ファーストアルバムの選曲も、国籍、時代背景と多彩なものとなっているのでしょう。
このCDを聴き始めてすぐに気がつくのはノエの音の出し方が丁寧なこと。いかなる時も汚い音、荒い音は出しません。録音がすごく優秀なこともありますが、適度な距離感を持ってふくよかで瑞々しいヴァイオリンの音が耳に心地よく届いてきます。
低音域はオールド楽器らしい適度なこもり音を伴っていますが、音量が不足することはありません。ピアノに音がマスクされることはなく、深みのある優しい音をたっぷりと聴くことができます。
そしてやや輝きを抑えた高音域が全体の品位を高めています。感情の高ぶりとともにヒステリックな高音を聴かされるような心配はありません。そういうわけで非常にバランスの取れた演奏と言えると思います。
しかし、そうなると、無いものねだりをしたくなるのが人情というもの。ヒステリックなところが無く、安心して聴けるのはとても良いのですが、もう少し急き立てられるようなところがあっても良いのではないかと思わなくもありません。決して安全運転的なつまらない演奏ではないのですが、やや物足りなさが残るのも事実だと思います。
そういった意味で一番吹っ切れた演奏をしているのはストラヴィンスキーのディヴェルティメントですね。表現の幅が大きく、変化に富み、ダイナミックで躍動感溢れる演奏になっていると思います。
なお、タルティーニの《悪魔のトリル》は良く知られたクライスラー編曲版ではなく、オリジナルに近い版を使って弾いています。奏法もピリオド奏法を取り入れたものです。聴きなれた《悪魔のトリル》ではないのでかえってびっくりするかもしれません。こちらがオリジナルなのです。
最後になりましたが、モーツァルトのソナタにおける共演ピアニストのパク・スミジャの素晴らしさにも触れておかなければならないと思います。この曲で彼女は室内楽奏者としての抜群のセンスを感じさせてくれました。
それにしてもこのCD実に良い音です。ワンポイント収録だそうですが、録音方式云々ではなく、暖色系の楽器の自然な質感、直接音とホールトーンとのブレンド加減等全く間然するところがありません。日本の録音も以前に比べると相当にレベルが高くなってきていると言えるでしょう。物理特性云々の追及だけでなく、それが良い音、心地よい音に繋がっていっているところが大変素晴らしいと思います。いくら楽器、演奏、ホールが良くても録音がダメだったら台無しですから・・・