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江藤俊哉の芸術

江藤俊哉の芸術 CD

BVCC- 38160/63

江藤俊哉の芸術

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲、ロマンス第2番
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
サンサーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番
ラロ:スペイン交響曲
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン

バッハ(ウィルヘルミ編):G線上のアリア

クライスラー:ベートーヴェンの主題によるロンディーノ、愛の悲しみ、愛の喜び
フバイ:そよ風
マスネ:タイスの瞑想曲

ディニーク(ハイフェッツ編):ホラ・スタッカート
アイルランド民謡(クライスラー編):ロンドンデリーの歌

ヴァイオリン:江藤俊哉
フェルディナント・ライトナー指揮 ロンドン交響楽団
エドワード・ダウンズ、レオン・ロヴェット指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
ピアノ:江藤玲子

録音:1970年~1972年 ロンドン、東京

日本人の弦楽器奏者の水準は近年とみに上がってきていると言われておりますが、40年も昔になるこの録音を聴いてみると、本当にそうなのだろうかと思ってしまいます。
確かに最近の日本の若い奏者は何でも器用にそつなくこなせるようになってきていると思います。音程も正確ですし、大きなミスもしません。しかし、どの演奏家も、その人ならではという強い個性が感じられず、何となく薄味のように思えてならないのです。どうも、この江藤俊哉のように、どっしりと充実した音楽を聴かせることができる人は今の日本人にはいないのではないかと思うのです。
江藤俊哉の音は「エトートーン」と呼ばれたように、まずその厚みのある音に特徴があります。いわばヴァイオリンの一番美味しいところだけを取り分けて食べさせてくれるような音です。
思えば、昔の巨匠たちは皆、ほんの数小節聴いただけでも誰が弾いているかわかるような強烈な個性の持ち主だったように思います。江藤についてもそれが言えるのではないでしょうか。

どの曲も堂々たる演奏ですが、とかく軽視されがちなラロのコンチェルトやツィゴイネルワイゼンなども全く手抜き無しの真剣勝負。豪快な音で弾きまくります。
かと言って、全く大味ではなく、フバイの「そよ風」では鮮やかなスピッカートでその題名の通りの軽やかさをみせてくれます。変幻自在。まさに大家の芸と言えるでしょう。

江藤俊哉はGuarneri del Gesu 1730、Stradivari 1710という2大ヴァイオリン名器を所有していたと聞いていますが、この録音当時に所有していた楽器については不明です。アメリカでのデビューには、フランス製のヴァイオリンを使ったというインタビュー記事で読んだことがあります。
彼はアメリカの楽器事情にも詳しかったためでしょうか、Sergio PeressonやLuiz Bellini などのアメリカ新作ヴァイオリンを弟子たちに率先して使わせ、日本に広めました。それらのヴァイオリン製作家は当時のことを考えますと、いわゆるレプリカヴァイオリンづくりの先駆けだったのではないかと思いますが、江藤が名器のことを良く知っていたからこそ、抵抗なくそういった新作ヴァイオリンを弟子に薦めることができたのでしょうね。