FOCD 9490
クララ・ジュミ・カン
第4回仙台国際音楽コンクール ライブ
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調 (セミファイナル)
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲(ガラコンサート)
ヴァイオリン:クララ・ジュミ・カン
パスカロ・ヴェロ指揮 仙台フィルハーモニー管弦楽団
2010年に行われた第4回仙台国際音楽コンクールの優勝者、クララ・ジュミ・カンのライブ録音CDです。
最近はヨーロッパのコンクールなどでもヴァイオリン部門の上位を占めるのは、韓国人、中国人系の奏者が多くなってきていますね。優勝したクララ・ジュミ・カンは1987年にドイツ、マンハイムで生まれ韓国系ドイツ人。両親はドイツで活躍する有名な声楽家とか。
4歳でマンハイム高等学院に入学、その後、リューベックにてザハール・ブロンに師事。7歳のときにジュリアード音楽院の全額奨学生となり、ドロシー・ディレイおよびヒョー・カンの薫陶を受けました。15歳の時にベルリン・ハンス・アイスラー高等音楽院に入学し、クリストフ・ポッペンに師事。現在は韓国国立芸術大学にてキム・ナムユンに師事。このように、東洋系と言ってもかなりの国際派であることがわかります。
2007年ティボール・ヴァルガ国際コンクール第3位、2009年ソウル国際ヴァイオリン・コンクール優勝、同年ハノーファー国際ヴァイオリン・コンクール第2位、2009いしかわミュージックアカデミーIMA音楽賞受賞など数多くの受賞歴を持っています。ただ、そんな彼女ですが紆余曲折はあったようで、そのあたりはCDのライナーノーツに詳しく載っています。少し抜粋させていただきます。
ドイツで活躍する有名な声楽家の両親のもとに生まれ、ドイツで暮らした幼少時からその才能を認められていた彼女は、ある時点まで順調な演奏家人生を送っていた。
シカゴ交響楽団との演奏会でデビューすべく、ダニエル・バレンボイムの家に住み込んで、研鑽を積んでいた彼女だったが、そのデビュー直前に指を骨折するというアクシデントに見舞われる。おそらく演奏家に復帰するのは無理、と両親は考えていたようだ。
彼女自身も自分のつまらないミスで指を骨折してしまったことに落ち込んだと言う。借りていたストラディヴァリウスも返してしまったし、しばらくは楽器なしで過ごした。
しかし、ドイツに戻った彼女は再びヴァイオリンを弾きたいという強い気持ちを感じ、韓国からドイツに戻ってくる父親に電話して、ヴァイオリンを買って来てもらった。
父親はもう本格的にヴァイオリンを弾くことはないのだろうと考えて、非常に安い楽器を携えて来た。彼女はそれに「ララ」という名前を付けて、以後愛奏することになる。今回のコンクールでもその楽器で参加した。
とあります。気になるのは「非常に安い楽器でこのコンクールを受けた」というくだりです。
ですが、このCDを聴いていただくときっとおわかりになると思うのですが、ヴァイオリンの音は全く素晴らしいものです。だいたい優勝できた訳ですから、他のコンテスタントに比べて楽器の音が著しく悪く聴こえていたということは無いと思います。ですから、「非常に安い楽器」とはいったいどんなヴァイオリンなのだろうかと逆に興味を持ってしまいますね。
第4回の本選はベートーヴェンの協奏曲に決まっていたとのことなので選択の余地は無かったわけですが、セミファイナルでメンデルスゾーンを弾くというのは、普通に考えれば相当危険な選択だと思います。ところがどうでしょう、彼女の演奏は技術的に安定しているのはもちろんのこと、冒頭から落ち着いたテンポで実に説得力を持った優美な演奏を繰り広げます。特に弱音を生かした表現が最高で、ゆっくりした部分の美しさは例えようもありません。
それはもちろんベートーヴェンにも生かされていて、ほとんど音階や分散和音でできていて、単純ながらも非常に表現が難しいこのコンチェルトを、実にニュアンス豊かに美しく聴かせます。しかし、カデンツァになると途端にワイルドな弾き方になり、技巧派としての側面も見せてくれます。
ライブ故の細かいミスは多少ありますが、音楽の流れ、構成は実にオーソドックスで立派なものです。折り目正しい演奏ですが、決して即物的、無機的ではなく、実に味わいの深い演奏だと思います。
彼女はこの仙台国際優勝の3か月後、インディアナポリス国際ヴァイオリンコンクールでも優勝を果たしました。そして4年間のStradivari 1683 “EX-Gingold”の使用権を獲得することになりました。
今後の活動に注目していきたいアーティストですね。