オーパス蔵 /OPK-2058
クライスラー ヴァイオリン小品集
クライスラー:ウィーン奇想曲 チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ
クライスラー:中国の太鼓 ショパン:マズルカ第1番
R.コルサコフ:インドの歌 ポルディーニ:踊る人形
クライスラー:美しきロスマリン R.コルサコフ:太陽への賛歌
ロンドンデリーの歌 クライスラー:愛の悲しみ
クライスラー:愛の喜び バッハ:ガボット
ファリャ:スペイン舞曲 クライスラー:ジプシー女
クライスラー:ロンディーノ スコット:蓮の国
ブラームス:ワルツ第15番
ドヴォルザーク:ユモレスク
ヴァイオリン:フリッツ・クライスラー ピアノ:フランツ・ルップ
録音:1936-38年
このCDはいわゆる板おこしと呼ばれる、レコードから復刻したもので、原盤は1分間に78回転で回るSPレコードに因るものです。
SPレコードはノイズが大変多いので、通常はノイズを消して聴きやすい状態にしてCD化いたします。ただそれには欠点もあります。それはどんなに注意深く処理したとしても、ノイズを除去した際に高い周波数域の成分も若干取ってしまう、あるいは変化させてしまう危険性があるのです。つまり、それはオリジナルの音を変えてしまうことを意味します。
ノイズリダクションによって、雑音が無く、滑らかで大変聴きやすいものにはなるのですが、音の角が取れ過ぎて、何か物足りない、大人しい音に変貌してしまうことが少なくありません。
そういった中で、たとえノイズが残っても電気的な処理を行わず、オリジナルのままをCD化しようという動きが出てまいりました。その筆頭がこのオーパス蔵というレーベルなのです。
実際にノイズリダクション処理したCD(右画像)と聴き比べてみますと音の生命感、瑞々しさがまるで違って聴こえます。オーパス蔵のCDですとまるで眼前でクライスラーがヴァイオリンを弾いているような生々しさがあるのです。
ノイズリダクションしたCDだけを聴いている分にはわからないのですが、両者を比較してみたらその違いは歴然としています。いかにヴァイオリンの再生に高域成分の質や量が大切かがわかるでしょう。
クライスラーの音楽を語るとき、ウィーン風という言葉が思い浮かびますが、それを日本人がイメージすると、ゆったりとしていて滑らかで甘い旋律美といったものでしょうか。
実際にクライスラーの演奏を聴いてみますと、確かにどの曲でもゆったりとしたテンポで弾いています。(中国の太鼓のテンポを聴いてみてください!)また随時ポルタメントを使い、甘い雰囲気づくりをしています。しかしリズムは意外に辛口で、例えば付点音符の処理などはかなり鋭く短く弾いています。(美しきロスマリン、愛の悲しみなどを聴いてみてください)
音符を短く弾くと、普通はどんどん前のめりになっていってしまうのですが、そう聴こえないのは、その分時間を取っている、つまりしっかりと間を空けて弾いているからです。甘い旋律美といっても、テンポを勝手に揺らした自己陶酔的な演奏などでは決して無いのです。
ライナーノーツにヴァイオリニストの天満敦子がクライスラーについての雑感を載せています。最後にその抜粋を紹介させていただきます。
すべてのテクニックがとても簡潔なのです。今風に言えばクールでクリーンなテクニック。今風のと大きな、絶対的な違いはすべての瞬間に音楽を感じていること。
テクニックは音楽表現のためのもの。音楽を表現するためにそのテクニックが生まれたはず。音楽のためでないテクニックはありえないのです!!ー中略ー
クライスラーの演奏をじっくり何回も何十回も“耳を凝らして”聴きましょう!これがヴァイオリンの真実です!!