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Noriyuki Matsushita の Cremona 便り第二回

第2回 渡伊

ようやくイタリア行きの準備が終わり、いよいよ出発の日が間近になったある日、突然すごく気が抜けてしまったのを今でもよく覚えています。

クレモナ行きを決断してからというもの、仕事と準備で毎日忙しくあわただしい日々を過ごしてきました。そしていざ出発という直前、仕事も準備もすべてやり終え何もしなくてもいい日が2、3日あったのですが、そこではじめて「もうすぐ自分はクレモナにいる」という現実を意識したのです。

「本当に自分がクレモナに行くのか?」「日本を離れ見知らぬ所で生活するのか?」などと考え、いつになくブルーになってしまいました。
というのも、私にとってはこれがはじめての外国で、しかもクレモナはこの世界に入ってから ヴァイオリンの聖地のように思っていた場所。そこに自分がいる、ということが現実 として受けとめられなかったのです。

そして、少なからず不安もありました。
「クレモナに行った後どうすればいいのか?」「どう動けばいいのか?」「貯金はいつまで持つのか?」と、そういうことを考え始めるとネガティブなことばかりが浮き彫りに なり、不安が希望を凌駕していきました。しかし、今ここでそんなことを考えても何 もはじまらないと思い直し、とりあえず行き当たりばったりで行動していくしかないと頭を切り替え出発の日を待つことにしました。

そしてその日が訪れ、以前から付きあっていた真紀と成田空港へと向かいました。
なんと私は、クレモナ行きが決定してすぐ「2年後にクレモナに呼ぶから待ってろ」 と、結婚の約束までしてしまっていたのです。
どこからその「2年」が来たのか私自身 いまだによくわからないのですが、今となっては、この先どうなるかさっぱりわからない自分がよく「2年後に結婚」などということを約束できたなと思いますし、そしてまたそれをまともに信じてくれた真紀にも頭の下がる思いがします。今の歳でそうい う状況であったならばかなり考えてしまっていたことでしょう。

そんなこんなで、いろいろあった5年間の東京生活とも、23年間育った日本とも別れを告げ、次はいつ帰って来るのかわからないままクレモナへと旅立ちました。

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