インテルメッツォの第19回です。
今回は前回に引き続き、楽器を選ぶ際によくある3つの行為(相談、研究、比較)の誤り について、私の独断と偏見を展開していきたいと思います。
今回からは「相談」の中の 相談相手の選択についてです。
ヴァイオリンを選ぶ際、人に相談される方は多いと思います。 その理由として、初心者なので何も分からない、楽器を選んだ経験が無い、 自分が選ぶのでは自信がない、弦楽器店を知らない・・・ 等があげられると思います。
そして、相談相手としては、多くの場合
1)ヴァイオリンの先生
2)学校の先輩
3)最近楽器を購入した仲間
4)店の人間
などでしょう。
4)は店に行く限り、発生する必然的なものなので、 ここでその是非について論ずることは避けます。
他の 1)~3) を相談相手として選ぶ根拠は、 おそらく
1)、2)は楽器の腕、経験が自分より優位という観点
3)は楽器選びの経験が自分より優位という観点
からだと思います。
先生、先輩は、自分よりも楽器が上手く弾けるのだから、 おそらく楽器選びについても達人に違いないと考えているということです。
でも、少し冷静に考えてみると、演奏の技術、経験が自分より優位なだけでは、必ずしも、楽器選びに関して自分よりはるかに優位かどうかはわかりません。
また、音楽、楽器という、趣味嗜好が大きく支配する世界で、 人に選んでもらったもので、自分が本当に満足できるかというのも 甚だ疑問です。
誰も、教習所の先生に自分の車を選んでもらおうとは考えないでしょう。
教師、演奏家は、奏法、演奏のプロフェッショナルであって、 必ずしも楽器選びに関するプロフェッショナルではありません。 楽器の演奏を専門的に勉強した人が、楽器の選び方、 楽器の見方に対してのポイントを押さえているとは 限らないのです。
それは、音大などの教育機関で、楽器の奏法は習っても、 楽器そのものについてや、楽器の選び方などについては 習ってきていないからです。 ですから、ヴァイオリン教師という立場で、生徒さんの楽器を、多数選んできている はずの先生にしても、楽器の良し悪しを、ただ価格で判断していたり、行き付けの楽器店の言葉だけを鵜呑みにしているケースもあるのです。
実は、楽器を正しく見極めるためには、良い楽器についての絶対的な尺度を 持っていることが必要になります。 これは数多くの本格的な楽器を見て、試奏することによってのみ獲得することができます。
もちろん楽器選びに関して、多くの楽器をそのように意識して見て、 多くの知識、経験を集積された、優れた能力をお持ちの先生方も いらっしゃることとは思います。そういう先生に出会えれば ラッキーかもしれません。
一方 、先生の中には「楽器はものによっては金額的にも大変高額なものなので、楽器選びのような 責任のある仕事にはタッチしません。」 と言われる方もいらっしゃいます。
これは、決して冷淡でも、不親切な訳でもなく、これはこれで立派なお考えであると私は思います。 専門外のことに関して、「知らない。」とはっきり言える人こそ、 本物だと思うからです。
要は、先生ならだれでも楽器を選ぶ能力があると、短絡的に考えてはいけないと言うことです。
また、先生に頼むと、選んでもらった楽器に不満があっても、 人間関係にひびが入るのを恐れて、断りにくくなるケースも生じます。
先生に安易にお願いすると、メリットと同時に リスクも背負い込む危険性もあるということを 知るべきでしょう。
指使いやボーイング、そして使う楽器まで、何から何まで先生に頼りきるという、特異な環境からの脱却をそろそろ考えても良いのかもしれません。
長くなりましたので、今回はこの辺で終わりにします。 次回もこの続きについて述べたいと思います。
次の更新は月中ごろを予定しております。 ご期待ください。