インテルメッツォの第13回です。
今回は「本物」、「偽物」、「贋作」について。
料理の鉄人という番組があります。
私は、この番組が好きで、結構よく見ているのですが、 ここに登場する鉄人たちは、いつも、素晴らしい料理の技術と エスプリを実際に披露してくれています。 あの映像を見る限りでは、彼らは「本物」であることが 素人目にもわかります。
しかし、鉄人のレストランに行けばあのような 姿を見ることができるかと言えば それは無理でしょう。
彼らのレストランでは、TV番組の「料理の鉄人」のようには、 鉄人自らが材料をきざみ、仕込みをし、そしてフライパンを 振って料理を作っている訳ではありません。
でも、人は、鉄人が全ては作っていないとわかりながらも 「鉄人のレストラン」に足を運び、鉄人の料理としてその料理を 味わうのです。
たとえ、鉄人自らが一皿一皿を作っていなくとも、 一つ一つの料理から、鉄人の技や味、そして エスプリを感じ取ることができるからです。
それが可能なのは、鉄人が独創的なレシピを考え、 それを弟子にも作れるよう指導し、料理の出来上がりが いかなる時でも、一定の水準を保てるよう管理しているからです。
ストラディヴァリらクレモナの巨匠たちがやっていたことも これと同じことが言えるのではないでしょうか。
もちろん、彼らも料理の鉄人同様、一人で作っても優れた 作品を産み出せることは間違いありません。
でも、工房製のヴァイオリンも、彼らの優れた指導力と、管理能力によって 本人自身の作に劣らぬ精度の楽器を産み出すことが出来ました。
工房製と言われるものには、実際、楽器として素晴らしいものが 沢山存在します。 また、弟子が大部分を作ったものに師匠のラベルを貼るということも 伝統的に行われています。
優秀な弟子は、師匠の手伝いをしながら、完璧に師匠のスタイルを踏襲して 楽器を製作することができるようになります。 そういうヴァイオリンは師匠の楽器として扱われます。
問題は、流派やスタイルを無視して、ラベルが貼り替えられている 「偽物」ヴァイオリンです。
それは古いだけで、本物とは似ても似つかぬ、作りのお粗末な楽器が 少なくありません。 ラベルの貼り替えは、後世の、心無い楽器商によって行われることが 多かったのだと思います。
職人は修業時代に、技術の向上のために、 必ず先人や師匠のコピーモデルを製作します。
もし、優秀な職人の製作したコピーモデル が後で何者かにラベルが貼り替えられたら・・・・
その時は、はなはだ鑑定は難しいと言わざるを得ません。
しかしその楽器を「贋作」と呼ぶのは相応しくないと思います。
当初は、己の技術向上のため、己の優れた技術を誇示するために 作ったものであって、なにも人をだまして儲けてやろうと思って 作った訳ではないのですから。
という訳で、弦楽器は「本物」でないから必ず悪いものとは言えないのです。
たとえ本物であっても、健康状態の悪いヴァイオリンは、聴衆を魅了するような音は出ません。 このような楽器は「本物」であっても「名器」とは言えないでしょう。
私の目指すものは「本格的なもの」という意味での「本物」です。
どこで作られた、誰が作ったかには特にこだわりません。
問題は、どう作られているか・・・だけではないでしょうか。
次回の更新は月末ごろになります。