年齢あてコンテスト?
この演奏が14歳の少女のものとは到底思えない!
(プレゼントCDは輸入盤で415 327-2)ヴァイオリン:アンネ・ゾフィー・ムター
指揮:ヘルべルト・フォン・カラヤン ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
アンネ・ゾフィー・ムター(1963~)
スイス生れの現代最高の人気と実力を誇るヴァイオリニストである。
彼女はカール・フレッシュ門下のE.ホーニベルガーとA.シュトゥッキに師事した。
つまりスイス生れと言っても、ドイツ文化圏を代表するヴァイオリニストなのである。
残念ながら、現在では、ジュリアード等のアメリカ勢の猛進撃に押され、ヨーロッパ系のヴァイオリニストで世界的に
活躍できる人は本当に少なくなった。
彼女が、そのようなヨーロッパのヴァイオリニストにとって不遇な環境下でも有名になることができたのは、
実はある人の力が大きい。
その人の名はカラヤン。
言わずと知れた、オーストリア出身の名指揮者、オーケストラ界のドンである。
カラヤンはドイツ伝統音楽の権化、CDメディアの帝王であった。
現代で言えば、ムターはさしずめ小室哲哉に見出されたアムロといったところであろうか。
ムターが有名になったきっかけは、カラヤン=ベルリンフィルとの一連のレコーディングの世界的リリースに他ならない。
もちろん並みの奏者だったらカラヤン様の目に留まる筈は無いが・・・・。
ムターとカラヤンの関係は、次の如くである。
1976年ルツェルン音楽祭での演奏を聴いた指揮者カラヤンに認められる。
1977年には、ザルツブルグ聖霊降誕祭フェスティヴァルでカラヤンと初めて共演した。
その後、18歳の時までに、ドイツグラモフォンに、カラヤン・ベルリンフィルでモーツァルト、メンデルスゾーン、ブルッフ、ブラームス、
ベートーヴェンなどの協奏曲を録音する。
これらのディスクは今聴いてもどれも水準が高い。
ここで、ご紹介するモーツァルトの協奏曲は彼女の記念すべきデビュー盤だったのだ。
彼女はこの録音で、すでに、とても14歳とは思えぬ成熟した音楽を聴かせてくれている。
落ち着き払ったテンポ感、一個の音符もないがしろにしない丁寧な弾き方、ヴァイオリンの魅力を
たっぷりと伝えてくれる官能的な音色。
単に、指が回るとか、早く弾けるというような次元の「上手さ」ではない。
中身のぎっしりと詰まった音楽的にも充実した演奏である。
もちろん、この演奏に対し、若さがないとか、軽やかさが無いという批判も可能だろう。
しかし、ここで聴ける、技術の安定感と密度の高い音質は比類の無いものである。
それに誰が文句を付けられよう。
ムターの特徴はまず、むせるような濃厚な音であろうか。
どんな時でも、刺激的だったり神経質な音を奏でることは無い。
そして、自身に満ちた、ゆったりしたテンポ感。
まさにドイツ音楽の王道を行くという感じである。
「まったり」とした彼女の官能的なヴァイオリンの音に一度はまるとそこから抜け出すことは困難である。
ムターの新譜が出るたびに買わずにはいられなくなるのだ。
カラヤンとの一連のレコーディングの後、ムターは、ムーティ、アッカルド、小澤、ロストロポーヴィチ、
レヴァイン等の指揮者と共演し、モーツァルト、バッハ、ラロ、グラズノフの協奏曲、小品集などを録音する。
しかし、この時期のレコーディングの私の印象は必ずしも良くは無い。
カラヤンという手綱を引き締めてくれる騎手を失い、ムターは迷走してしまったのか。
骨太の表現が、説得力を欠き、時に恣意的な表現に傾いてしまうことがしばしば感じられたのである。
そんなムターの確実な復調、変貌を感じさせてくれたのが、ベルリンリサイタルというライブ盤(1995年9月録音)、
ブラームスの協奏曲の再録1997年7月(指揮者はクルト・マズア)、
そしてベートーヴェンのヴァイオリンソナタ全曲1998年8月である。
ここでも、テンポの変化など、これまでのようにムター独自の表現は目立つ。
しかし、以前との違いは、説得力の違いであろうか。
今までなら、あまりにも行き過ぎと感じさせた表現も、なるほどこの曲には
こういう弾き方もあるのかと感心させ、曲の全く別の側面を映し出して見せてくれたりする。
独自の解釈が、決して気まぐれなものではなく、考え抜かれた末の選択であることを、
はっきりと解からせてくれる演奏に変わったのである。
見事に開花したムターの芸術。
しかし、その原点はデビュー盤のモーツァルトにある。
なお、この時の楽器は1755年製のガリアーノを使用。
(クラシック名盤大全 音楽之友社刊による)
今はストラディヴァリウスを弾いている。
<参考>
ムターの「今」を聴くCD。
ベルリン・リサイタル
ブラームス
ヴァイオリン協奏曲
ベートーヴェン
ヴァイオリンソナタ全曲
レコード芸術1999 2月号にもムターのインタビュー記事が掲載されています