ヴァイオリン/チェロの名曲名演奏
こんなに本音を書いてしまって良いのでしょうか?
渡辺 和彦著 ON BOOKS(音楽之友社)950円
名人の演奏だろうが名盤の誉れ高いだろうが、悪いものは悪い、嫌いなものは嫌いと言い切る、爽快な本である。
例えば有名なメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調はこんな調子である。
この曲のどこがコワイかというと、
メロディの流れが良すぎて聴き手には簡単な曲のようにきこえてしまい、それでいて耳の良い人には、演奏者のカンタービレの度合い(ヴィブラートの質やその種類の使い分け、ボウイングの巧拙などによって決る)が即座に判明してしまう点だろう。
そうした面を考えに入れて最高に美しく感じられるのがスターンがまだ若い頃、58年に入れた録音だ。
ここでの彼は太く輝きのある芯の強い音で、じつに堂々と弾き進んでいる。
この録音と、同じスターンが80年に小澤征爾の指揮で入れたものを比べれば、この名手のボウイングの衰えとスタジオ入りの際の練習不足(?)が分かる。
とまさに歯に衣を着せぬ解説ぶりである。
身銭を切らずにサンプル盤ばかりを聴いている評論家先生からはこのような鋭い批評は聞けっこない。
同曲異演、どれを買ったら良いかと迷うとき、まずこの本を参考にされるが良い。
もちろん読み物としても、作品の背景、作曲者について簡潔にまとめられているし、コラム「おけいこ名曲を探る」、「コンマス名曲を探る」なども貴重な資料的を持つ。
この本は私の座右の書でもある。