新作ヴァイオリンの真価を世に問う
このCDでイタリア新作ヴァイオリンの音が聴ける!
J.S.バッハ無伴奏ソナタとパルティータ
ALCD-7059〜7060 Vn:島根 恵
使用楽器:Marcello Ive 1995
島根 恵 『J.S.バッハ無伴奏ソナタとパルティータ』を
イタリア新作ヴァイオリン Marcello Ive でレコーディング
おそらく、こんな“楽器屋”的な紹介は演奏家にとっては本意ではないと思います。
もちろん、島根恵がこのCDで世に問いたかったものは新作ヴァイオリンの実力などではなく、自分のバッハの演奏であり、その解釈であったはずです。バッハ自筆の譜面やバロック奏法を研究した上で、敢えてモダン楽器で演奏されたこのCDは、確かに、時にエキセントリックに傾く刺激的な古楽器演奏のスタイルでもなければ、モダン楽器をたっぷり鳴らしたロマンティックな大時代的な演奏でもない、まさに彼女独自の世界を作り上げていると思います。
でも、ここでは“楽器”にスポットを当てて話をさせていただきましょう。
演奏の世界では、コンクールの時だけ、あるいはレコーディングの時だけ自分の楽器ではなく、いわゆる名器(銘器)、例えばStrad、del Gesu などを使うなどということも珍しくありません。もちろんそれによって大きな効果を得ることができることも事実でしょう。しかしそれらは所詮は“借り物”に過ぎません。
雑誌(月刊ストリング 2000年12月)のインタビューで、アン・アキコ・マイヤーズは最近デル・ジェスからヴィヨームに換えたという話をしています。その理由というのが「いくら銘器であっても、借りたものというのはいつ返却を余儀なくされるかわからないものだから。」 だそうです。「自分が買うことのできるヴァイオリンを弾くというのは大切なことだとつくづく思います。」とも彼女は言っています。島根恵がIveでレコーディングに臨んだのも、借り物でない自分の音楽を、これまた借り物ではない自分のヴァイオリンで試してみたかったからなのかもしれません。
ところで、私は選定した新作楽器を演奏家の方に試していただくことがよくあります。
その時にお答えいただく言葉で一番多いのが
「これだったらすぐに演奏会に使えますね。」
「弾きこんでいない全くの新品でも良い音がするものですね。」
といったものです。
もちろん、お褒めの言葉をいただいくこと自体は大変嬉しいことなのですが、反面、「新作楽器はすぐには使えるものではまずない」「新作はセカンド楽器としてならまだしも、メインの楽器には成り得ない」・・・・・という考え方がまだまだ根強いものであることを思い知らされることになります。
良い新作楽器は初めから良い音がする。良い音がしないのは“新作”であるせいではなく、その楽器の作り方に問題があるという楽器製作の“常識”はまだ通用しないのです。
ですからこのCDによって新作楽器の素晴らしさ(と言うよりもその“普通”さでしょうか?)を多くの人に知っていただけるのは大変に嬉しいことです。
ただ、こういったご紹介をいたしますと「Iveってのが良いのだな。それじゃIveを探そう。それはどこにありますか?」「いったい新作ヴァイオリンはどれ(誰の、どこの国の)が良いのでしょう。」というお問い合わせが増えると思います。お気持ちは良く解ります。でもそれでは上手くいかない場合も多いのです。
最近「〜」作のヴァイオリンはありますか、という作者指定の問い合わせが よく入ります。 コンテムポラリー・メーカーの指名が主流ですが、
友人の持っている「〜」作のヴァイオリン が素晴らしい音をしているので 捜している、もしくはみなが知っている名前なので購入したい、 という処に理由はあるのです。
しかし、作者を指定して音を求める姿勢は最も愚かな選定法の 一つでしょう。 同じメーカーが同じ“パターン”で 作ったとしても 同じ音は絶対にしないからです。
G.B.モラッシのような音は存在するけれども、個々のモラッシを比較 すれば、あるものは音量が無く、あるものは音質が堅いなどと、 一本一本違う音色を持っているからです。
友人の持っている「素晴らしいモラッシの音」はたまたま「そのモラッシ」 の持っている音であり、その他のモラッシの音ではないことを知っておかなくてはいけません。 そして、「その素晴らしいモラッシの音」と同じような音は、別のメーカー の作品にもたくさんあるのでは、と考えるべきでしょう。(後略) 「ヴァイオリンの見方・選び方」神田 侑晃 月刊ストリング2001年 2月号 P.77より引用
神田氏の書かれている通り、たとえ一人の製作者が同じ時期に同じ材料を使って同じように楽器を2台作ったとしても、その出来上がりや音が全く同一のものとなることはありません。
まして意識して色々なスタイルの楽器を作り出している人もいるのです。また製作年代により作風が変化している製作家も少なくありません。
「誰それの楽器ははこんなだ」 と決め付けてしまうことがいかに無謀なことかお解りになるはずです。
私は弦楽器というのは人と同じようなものではないかと思うのです。1台1台がそれぞれ違った個性を持つ存在なのです。
1台1台の個性と注意深く、そして自分の感性に正直に向かい合うことさえできれば良い楽器に巡りうことができるはずです。 年代の新旧、国籍、製作者知名度、価格の高い安いにかかわらず、優秀な楽器、貴方が音を気に入られる楽器は世の中に存在し得るのです。
製作家を指定して楽器を探すことは、コレクターでもない限りは実際には必要のないことなのです。
「新作は使えない! 」と思われている方。先ずはこのCDをお聴きになってみてください。
スペイン組曲
サラサーテ:アンダルシアのロマンス
サラサーテ:プライェーラ
J.ニン:スペイン組曲
A.ピアソラ:タンゴの歴史
A.コレルリ:ソナタニ短調 ※
J.M.セナモン:3つの肖像
ALCD-7045
Vn:島根 恵 G:原 善伸
使用楽器:Marcello Ive 1995
※ L.Storioni 1768
こちらもバッハ同様 使用楽器には Iveの名が記されています。
ただし1曲だけは L.Storioni 1768を使用されています。楽器屋的には L.Storioni と Iveの聴き比べができるなどと思ってしまうのですが、L.Storioni を使用した曲のみ何故かピッチが低いのです。ということはバロック仕様のもので弾かれている可能性もあります。これでは同じ土俵で比べるのは無理ですね。
島根 恵
明記されていませんが、この写真の楽器もMarcello Ive なのでは?