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ヴァイオリン選びで誰もが陥りやすい罠 (真贋について2)

インテルメッツォの第29回です。

「真贋を見分ける話」の続きです。

「なんでも鑑定団」でお馴染みの中島 誠之助氏の著書に 『骨董の真贋』(二見書房)という本があります。
その中に、「鉄人が伝授する鑑賞の鉄則」というものが あるのですが、骨董品のみならず、楽器を見る際にも大いに役立ちそうです。 もっとも、弦楽器は骨董品的要素を多分に含んでいると見る向きも有りますから当然と言えば当然なのですが・・・・。 ここにそれをご紹介いたします。

まずは項目だけを挙げ、その後ひとつひとつを見ていきましょう。
「 」内は中島氏の言葉 その後は私なりの解釈、解説です。

第 1条 作品が生きているかどうかを感じる

第 2条 ブランドに惑わされるな

第 3条 年代にこだわるな

第 4条 たくさんのものを、時間をかけて見なさい

第 5条 本物をできるだけ見なさい

第 6条 本物のあとに自分が気に入ったものを見る

第 7条 人の話に惑わされるな

第 8条 業者と仲良くしなさい

第 9条 モノに直接触れなさい

第10条 自分の好みのジャンルを極めろ

第 1条 作品が生きているかどうかを感じる

「生きている作品というのは、品物の中に作者の血が流れているような印象を受けるものです。贋作や大量生産されたもののは、作品が生きていません。」

弦楽器の場合は例外的に、贋作と言っても悪意の無いもの、つまり、良いものを作らんが為に銘器をコピーしたというようなものが沢山あります。 これらのものは「生きている作品」と言えましょう。
もし楽器を見て良くわからなかったら、それはぴんとこなかったのです。 それは自分が未熟なのかもしれません。作品が未熟なのかもしれません。 しかし、どちらにしろ、ぴんとこなかったことは事実です。 この場合、ぴんとこなかったことが大事なのです。 自分の感覚に正直になるべきです。決してわかったふりはしないことです。

第 2条 ブランドに惑わされるな

「お上がこうだ、大多数がこうだ、といえば、 自分では何も考えないでそうだと思ってしまう。 誰が何と言おうとも、自分の目で見て、自分の感性で判断しなければ、成長はありません。」

自分に自信が無いから、他人の評価が気になるのです。それで、他人の持っているもの、すでに評価が定まったもの以外は選べなくなってしまうのです。

第 3条 年代にこだわるな

「年代の古さだけにこだわりつづけると、もはや本当にいいものを見つけることができなくなっています。」

もちろん古いものの中に良いものが多かったのは事実です。 しかし、それらが、既に誰かの所有物として納まってしまっているとすれば、良いものがそう多く出回るはずはないとも考えられます。古さだけにこだわらず、良いものでありさえすれば、新しいものであってもきちっと目を向けるべきなのです。

第 4条 たくさんのものを、時間をかけて見なさい

「さまざまなジャンルのものを、好き嫌いにかかわらず、何でも見ること。専門外であっても、とにかく一流のものは何でも見るようにすることです。」

これは、弦楽器に限らず、美術品や工芸品等、人間が手で作り出したものを広く見ることによって、感性が養われるということではないでしょうか。 また、書籍や写真だけでなく実際にものを見に行く機会を 多く持つことが大事です。

第 5条 本物をできるだけ見なさい

「本物を見る、これがいちばん大事なことです。 本物を見続けてこそ、本物の目が養えます。」

弦楽器の場合は「偽物」の中にも楽器としてすばらしいものがあります。ですから、本物=本格的なもの=良いものと解釈すべきでしょう。

また、別の方(轡田 隆史氏)は「最も良いものに触れておけば、良くないものを嗅ぎわける力がつく」 (「考える力」をつける本2)とも書かれています。

レベルの低い楽器をいくら沢山見続けても、ご自分のレベルは向上しません。

第 6条 本物のあとに自分が気に入ったものを見る

「本物を見つづけて、本物の匂い、感性がなんとなくわかってきたあとに好きなものを見るのです。」

最初から自分の好みで楽器を探すと、それぞれの楽器の音色の違いに惑わされ、いったいどれが良いのかわからなくなってしまうことが良くあります。好みが見る都度、変わってしまうのです。
まず、良いものを見て、基準がわかった上で、その後に自分の好きなものを 探すと、その危険性は少なくなります。

第 7条 人の話に惑わされるな

「他人の話に心が動く人間にかぎって騙されるものです。」
「人の話なんか、どうだっていいのです。自分がいいと思ったら買えばいい。 自分がいやだと思ったら買わなければいい。 人の『話』ではなく、自分の『目』を判断基準にすることです。」

前にもインテルメッツォで書きましたが、「相談」は あまり得策ではありません。
それぞれ、楽器の見方が違いますし、自分の楽器選びではないと無責任なことを言う人もいるからです。
一旦人の意見を聞いてしまうと、それがどんな内容であっても一切気にしないと前もって心に決めていたとしても、それに左右されないでいることは困難です。それよりも自分の中で方針が完結していた方が、はるかに精神衛生上良いと思います。

第 8条 業者と仲良くしなさい

「まず、第一に業者と仲良くしなさい、とほとんどの本に書いてあります。 とんでもないことです。私にいわせればチャンチャラおかしい。 まずは、第7条までをきちんと習得すること。業者と仲良くするのは、それからです。」

製作者名、鑑定書を振りかざすのではなく、良いもの(必ずしも古くて、高価なものとは限りません。 また、有名なものとも限りません。)を見せてくれる弦楽器店を上手く探されることです。

第 9条 モノに直接触れなさい

「業者と仲良くなったならば、つぎはものに直接触れることです。」

これは、楽器ですから、皆さん 当然やっていると感じられていることと思います。 しかし、高い楽器だと、お見せしても、怖がって手を出そうとしない方もいらっしゃいます。そういう時にこそ、音を出すだけでなく、色々な角度から楽器を見て、 触ってみるべきなのです。
実は弾くだけではなく、触ってみると、 製作に精通していなくても、材料の質感、加工の精度など結構わかるものです。
私は師匠に「楽器を良く磨きなさい」と習いました。 それは、お客様にお見せするのだからという意味合いももちろんありますが 実は、磨いていると、楽器の隆起の違いが実に良くわかるものです。 師匠は、そうやって楽器の違いや良い楽器というものを 肌で感じ取れと言いたかったのです。

第10条 自分の好みのジャンルを極めろ

「これだけは絶対人に負けないというジャンルを作ることです」

これは、ディーラーやコレクターを目指されない限り、特に必要無い項目だと思います。

最初は楽器をどうやって見て良いかわからなくても、上記のことに気をつけて見続けていると、やがて、 まるで霧が晴れるように「楽器の姿」「楽器の本質」が見えてくることでしょう。

次の更新は12月初旬を予定しております。 どうぞご期待ください。