第5回目は弦楽器の弓の話題です。
まずクイズです。
◆弓にまつわるクイズ
1)弓は楽器に付いてくるものである。
2)楽器が音を出すのであるから、弓はどれを使っても音は変わらない。
3)高価な弓の高価な理由は、弓の毛が高いからである。
4)弓は消耗品なので、古い弓は使わない方が良い。
5)金や鼈甲細工の弓は良い弓である。
6)弓の弾き易さは弓の重さで決る。
7)弓の毛替えは簡単な作業なので誰に任せてもまず失敗はない。
「 何だ馬鹿にするな」と言われそうですが、一応、下に答えを載せておきます。
1)楽器を買っても弓は付いてはきません。 ただし、初心者向などにセットにして販売しているケースはあります。 これは例外なのです。
2)弓によって楽器の音は変わります。これは良い楽器になれば なるほど顕著になります。
3)弓の高い理由は棒の部分の木材の質の違いにあります。何も知らない人から見たら単純な棒切れでしかない弓ですが3万円で買えるものもあれば、500万円、1000万円するようなものもあります。
でもたとえ1000万円の弓であっても、毛の代金は張り替えの技術料込みでせいぜい10000円止まりです。
4)古くても良い弓は有ります。 確かに弓の木部は細く削られているため 長い間には弾力性が失われていきます。 しかし良い材料の場合は、長い間使われていても、 殆ど性能が劣ることがありません。 実は昔の方が、良い材料を手に入れ易かったので、古くても 劣化せずにすんでいる弓もあるのです。 (こういうものは珍重されやはり高価にはなります。) ただ、古ければ良いと短絡的に考えるのも危険です。 やはり上記の理由で、弾力性の失われた弓も 存在するからです。 ですからオールドボウを選ぶ時は慎重に。
5)最高の材料が手に入った時、弓製作者は鼈甲や金を使うとは言われています。 ただ、金鼈甲だから必ず良い弓とは言えません。 もちろん値段は高くなります。
6)ヴァイオリンで弓の重さは60g±2gです。重めに感じたり軽く感じたりするのは、 弓のバランス(重量配分)の違いによる方が 大です。 例えば先が重い弓は実際の重いよりも重く感じます。 実測の重さよりも弾いた時に感じる重さ、バランスを重視して下さい。
7)弓の毛替えは、実はかなり微妙な作業で その出来不出来は、弓の性能にも大きな影響を与えています。 例えば、毛の張り方が左右不均等ですと弓が曲がってしまうことも あります。また毛替えの作業中にオールドボウを破損してしまった という悲しい話もあります。ですから、「早い」、「安い」、「近い」だけで毛替えに出すのは考えものです。
弓 というのは考え方によっては楽器以上に重要なものです。
ただの単純な棒切れにどのような違いがあるのでしょう?
弓は言わば自動車のタイヤやサスペンションのようなものです。 いくら高性能のエンジンを積んでいても、 サスペンションやタイヤがお粗末では、 車としての十分な走りは期待できません。
弦楽器の場合で言えば、いくら楽器が銘器でも弓が悪ければ、その楽器の本来の響きを引き出すことはできないのです。 だいいち、弦楽器の場合、ピッチカート奏法は別として、 弓無くしては音すら出せません。
弦楽器の場合、楽器による音の違いは確かにあります。 しかし演奏者による音の違いはもっと顕著です。 たとえ同じ楽器を弾いたとしても、演奏者によって全く違う音に 聞こえる場合も少なくありません。
それは奏法が人により異なるからです。
奏法をもっと細かく分析すれば、弓の動かす速度、 弦に対する弓の圧力、駒からどれぐらい離れた位置を弾くか、 ヴィブラートの速度・振幅の大きさ等々になると思います。 これらの微妙な違いが、奏者の音の個性を生み出しているのです。
ヴィブラートを除けば、他は全部弓の運動に関する問題であることにお気づきになると思います。
奏者の音楽的要求は弓の運動として楽器に伝えられます。 その際の伝わり方が弓によって差が出てくるのです。 ですから、音を変化させる要素として弓も考慮に入れなくてはならないことがお判りいただけるでしょう。
ではどうやって良い弓を選べば良いのかということになりますが、それはまた次回(9月末)にお話ししましょう。