【 鑑定家として、ディラーとして世界的に著名なPeter Biddulph(ピーター・ビダルフ)のプロデュースによるCD付写真集 】
ピーター・ビダルフについて
ピーター・ビダルフは本業の楽器鑑定、ディラーの傍ら、歴史的なヴァイオリン奏者の名演をCDに復刻するという、一見地味な仕事をずっと続けている。
輸入CDショップで「ビダルフ」ブランドのCDを見かけた方も多いに違いない。
また、ビダルフは1994年、ガルネリ・デル・ジェス没後250年を記念して全世界のデル・ジェスオーナーに呼びかけ、大展示会をニューヨークで開催した。
そのとき集まったデル・ジェスは25本。
現存するデルジェスが200本弱と言われているから25本が一堂に会するのは、今後もまず有り得ないであろう画期的な出来事であった。
これはビダルフが全世界中からヴァイオリンのエキスパートとして信頼されている証である。
(その時の大展示会の写真集はサラサーテ第一回プレゼントになっています)
ピーター・ビダルフの尽力で今回はアメリカ国会図書館に眠る5本の銘器が録音されることになった。
彼の眼鏡にかなうものであるからこの5台というのは銘器中の銘器に違いない。
アメリカ国会図書館がこのような銘器を所蔵するきっかけは1935年にMrs.Gertrude Clarke Whittall が4組のストラディヴァリを寄贈したのが始まりである。
Stewart Pollens撮影の写真はニスの色を忠実に再現し、大変に美しい。
また、普段は省略されるヴァイオリンの横からのショットがすべてに撮影されているのが貴重である。
これによって、アマティ、ストラディヴァリウス、デル・ジェスのアーチング(楽器の膨らみ)を実際に比べてみることができる。
どなたにも、アマティ→ストラディヴァリウス→デル・ジェスとアーチングが低くなっていく事実が感じ取れるはずである。
これは、音量を求める結果、時代とともにアーチングが低い方向へと変化していったのである。
せっかくの銘器の弾き比べのCDも、演奏者の個性丸出し、厚化粧の演奏で台無しになってしまうことも往々にしてある。
このCDは演奏者Elmar Oliveiraの極めて誠実な演奏によって、見事に楽器の個性を浮き上がらせてくれている。
この中で、私のお気に入りはGuarneri del Gesu “Kreisler”(1733)である。
実は、どちらかというと、私は、デル・ジェスを弾く奏者よりもストラディヴァリウスを弾くヴァイオリニストの方が好きなのであるが、 例外は古澤 巌とパールマンである。
デル・ジェスの音とは思えない、艶やかさやしなやかさがこの二人には感じられるからである。
(もっとも、パールマンは最近ストラドも弾いているようなのでもはや純粋なデル・ジェスの弾き手とは言えないのかもしれないが。)
その例外にもう一つ、Guarneri del Gesu “Kreisler”(1733)を加えねばならないだろう。
普通、ヴァイオリンは同一年代に複数の楽器が作られるため、銘器の場合、それらを区別するため、楽器に愛称をつけて呼ばれることが多い。
その場合、所有者の名が冠されることがほとんどである。
つまり、このデル・ジェスは、ヴァイオリンの名曲を数多く残した作曲者、あのクライスラーの所有していたものなのである。
クライスラーはヴァイオリンの名手でもあり、自作の小品はもちろん協奏曲など多くのレコーディングを後世に残している。
また、デル・ジェスとストラドの両方を所有するという、大変な楽器のコレクターでもあった。
(そのストラドの方は現在オーギュスタン・デュメイが所有しているとか。)
ともかく、クレモナの黄金時代の響きを、是非、貴方の目で耳で堪能下さい。